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白亜はいつも泣いていると櫻子が言った。白亜はそんなつもりもなければ、泣くことなど少ないし、櫻子に見せることもない。
けれども櫻子は譲らなかった。そして言った。
「白亜のこころはいつも泣いてる。わたし、知っているの」
白亜はどきりとせずにはいられなかった。
こころが泣いている。内心は涙で濡れている時もあるのは確かかもしれなかった。
不安はいつも襲う。いつまで櫻子とこうしてふたりきりの時間を守っていけるのか。それを壊すのは自分なのか櫻子なのか。どちらにしても恐ろしいことには違いない。いつか、何か違うかもしれない。いつか、あの家から、どちらかが出ていく時が来るかもしれない。
しかし白亜はその不安を櫻子に隠して通せていると思っていた。
「白亜、知ってた? あなたね、時々ね、泣きそうな顔してる時あるって」
「……そんなことないと思う。姉さんと居るとそういう感覚を忘れられる」
白亜には自信があった。哀しいという感情を櫻子と居ると忘れてしまうという自信。
「だから、こころが泣いているの。そうしてね、透明に透明に、この花のように透けていくのだわ」
そんな会話を交わしているうちに、サンカヨウは期待通りに透明なガラスのように変容していた。自分たちも若干濡れているが、陽は差しているから寒くはなかった。
光の屈折でサンカヨウがクリスタルのように仄かに輝いて見えた。まるで祝福を世界に与えるような光景。
「昔ね、母さんが言ったことがあるの」
「どんな?」
「ふたりはふたりのまま、ずっといつまでも一緒にいられるから安心なさいって」
どうして母がそんなことを言ったのか、白亜にはさっぱりわからなかった。ずっと一緒に居るられるならば、両親ともずっと一緒に居ることが出来たはずだ。そんなことを思ってしまった。
「ほら。またこころが泣いている」
そう言うと、櫻子は優しい声でくすりと笑った。
「どうしてわかるの? 僕にはわからないのに。こころが透けていくから? 姉さんは、僕のこと全てを知っているみたいだ、まるで」
「わかるわ」と言うと、櫻子は白亜の頰に伝った涙ではない水滴を掬った。
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