透けていく、花と共に

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「泣いていない」 「わかってる。でも泣いている。どうしてかわかる? わたしたちには親愛の情がある。それから、あなたはとても清楚な人だから。不安そうなあなたが不安だった」  白亜は、櫻子の様子がおかしかったのではなく、おかしかったのは自分の方だったのだと気が付いた。  彼女の言った前者は、白亜が櫻子に抱く感情そのものだった。しかし、清楚という言葉には引っ掛かりを覚える。清楚といえば、普通は女性を形容する言葉だろうと白亜は思う。 「白亜には、清楚って言葉がとても似合うとわたしは思うの。清らかなあなたが好きよ。透けてしまうくらいに綺麗なこころ。わたしはね、そんなあなたとずっと一緒に居たいの。あなたの澄んだこころのそばにずっと居たい。見つめていたい。親愛の君を守りつづけたい。今までみたいに、でも少し違う」  最後の言葉に、白亜ははっとした。  彼はいつからか、ある中間地点で戸惑いや不安、切なさを覚えてしまっていた。櫻子とふたりでいつまでも共に居たい。その感情はとあるものとものの中間でぶらりとしていたが、そこから動くことがなかった。 「曲解だけれども、親しみと共にそれ以上の愛もあるっていうこと。わたしにとっての親愛はそういう意味だわ」 「共にある僕らにはそれ以上の愛があるっていうこと? いや、いいんだ、もう。透けてしまっているのだから。僕には、あるよ」 「わたしも同じ。この関係は不安? 切ない? つらい?」  白亜は桜子の問いに困惑してしまった。何かを言えば何かが壊れてしまうかもしれないと思うと、すぐに答えとなる言葉は見つからない。  どちらも、捨てたくなかった。 「僕らは、真ん中にいる」 「そう、真ん中。どちらに振れてもおかしくないのに真ん中に居つづけているの。だから、ね?」  白亜は気が付いたら泣いていた。サンカヨウはいつの間にか真白い花弁へと姿を戻していた。  ぽたりと彼の涙が花弁に落ちたけれど、透明にはならない。
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