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手を洗おうと思って洗面所へ行ったら、
そこには
ずぶ濡れの中学の制服を着たまま
ずぶ濡れの髪をかき上げて
後ろに撫でつけ
鏡を見ている
弟の巧がいた。
いつもと違う髪型は、
端的に言って変である。
「あ。おかえりなさい、奏くん」
「……どうしたの、その頭」
「傘持って行かなかったから、濡れちゃって」
朝の天気予報で、午後から雨だって言っていたのになあ、と奏は思う。
そんなことにはおかまいなしに、
「ねえ、この髪型、意外にいけてると思いません?」
と巧が訊いてきた。
訊いてきたというより、自信満々でそう言った。
奏はそれに無言で答える。
「そうですかねえ?」
巧は首をかしげながら、
今度は髪を横に流してみたり、
上につんつん立ててみたりしている。
そして突然、何かを発見したように叫んだ。
「僕って、かわいいですよね」
衝撃のあまり、奏は一瞬、開いた口が塞がらない。
すると巧は遠慮がちに言う。
「あ。もちろん、奏くんもかわいいですよ。
僕たち、ほとんど同じ顔ですもんね」
「……」
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