桐島隆と美咲の結婚

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「京香さん、あそこの交差点角にお寺があるでしょ。お寺の塀があって 街灯やお店の灯りもないし、結構暗いですよ。顔見えたんですか。ホントに清水さんと、希美さん?」 ウラメンバー後輩から疑問が出た。 「顔は……見てない、背が高くてあの男性は清水さん……じゃないかな」 京香は突き詰められると自信がなくなっていた。なぜ、キスシーン実演証言 までしたのが、少し恥ずかしくなっていた。 「曖昧ね。そんなことぐらいで。他のカップルだったらどうするの。大問題よ」 公子がトドメを刺す。 「そうですね」 京香は静々と自分の席へ戻ってきた。 「時間は?」 美咲の一言が京香に自信をつけさせるきっかけになった。 「17時50分。満腹ラーメンの前を通って、彼に今度行こうって話してその時ナビの時間見たんです。17時50分でした。で、すぐ交差点ですから。誤差は1分ぐらい間違いないです」 「事故は18時過ぎでしたよね」 「18時4分よ」 公子が涼子の曖昧な情報を瞬時で訂正した。 「京香さん何かあっ、女性のコートは見えなかったんですか」 「コート……白っぽかったわ。黒とかではなかった。ちらっと見えただけだけど」 「はい、キタッ、希美ちゃんは白のコート着てましたっ」 公子にもう訂正できないだろうと、なぜかドヤ顔の涼子。 「間違いないですよ。京香さん」 「じゃ何、キスしてたから、故意に突き飛ばす理由がないとでもいうの。 単純ね」 公子らしくない。根拠がない私情な感想を述べた。 公子情報網でも交差点のカップルの詳細は入ってこなかったようだ。 トントン、ドアのノックとともに、室長が顔を出した。 「田口 京香さん。お願いします」 「はい」 緊張気味な京香に 「希美さんと清水さんに間違いないですよ、頑張ってください」 笑顔で涼子は励ました。 美咲はねっとりとした笑顔で京香を見送った。 2週間後、清水達也、神崎希美の事故は歩道で希美が達也に抱きついた。その拍子に雪が降っていたために足を滑らせた達也が転んでしまった。その瞬間トラックが。 過失致死罪。希美は不起訴。清水側も不慮の事故と納得。希美を控訴しなかった。 事故直前に清水、希美の2人は抱き合いキスを交わしていた。同僚の田口 京香の証言。 事故2日後現れた同時刻キスをするカップルを見た男性の証言。 カップルの男性が有名ブランドバッグを歩道に置きっぱなしで、夢中で抱き合ってたんで、盗まれるぞって思いながら横を通り過ぎました。女性は男性の陰に隠れてたので見えなかった。有名バッグが清水の物と一致。 意識が戻った希美が、キスをしていました。清水とは結婚の約束をしていた。喧嘩したが仲直りしたところだった。証拠は清水が送った最後のラインだった。嬉しくて抱きついたが彼の足が滑って、彼は私を庇って……と 泣き崩れるばかりだった。 悲劇的な事故とマスコミはドラマチックに報道。 彼女を守って死んだ、清水達也のことをヒーローのように生い立ちから現在までをたどる番組まであった。 1ヶ月後退院した希美は、テレビ番組のインタビューで泣きながら謝罪していた。 今や希美は悲劇のヒロインのような扱いになったいた。 2月初旬、昼休憩のヤリメイ。大型ビジョンではお昼のワイドショーで希美のインタビューが流れていた。 「かわいそうっ」 「辛いよね。自分を助けようとして清水さん亡くなったんだもんね」 「そんなに、謝罪しなくてもいいよ」 「立ち直れないよね。苦しそう」 大勢の社員が同情しながら見ていた。泣いてる女子社員もいる。 1人を除いては。 ウラ受付の今里 公子だ。食券も買わずに、苦々しくビジョンを見つめていた。 ブーンブーン。公子はスマホを手にした。 「誰?」公衆電話からだった。 「キスの相手は、栗田 美咲」 それだけ言って切れた。 希美がハンカチで涙をぬぐいながら、嗚咽を漏らしている。 インタビュー最大の見せ場が大型ビジョンで流れていた。 スマホを小さなバックに入れて、公子は 「あははは」と笑いかけて慌てて口を手で塞いだ。 「なるほどね、あーお腹すいたっ」 ヤリメイ2月特別メニュー節分お豆ちゃんランチのボタンを押した。
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