桐島隆と美咲の結婚

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午後12時 昼休憩の時間。 「オモテ全員、鈴木室長がお呼びですよ」  代わりに総務から数人受付に入ってくれた。  会議室はオモテ、ウラ、受付全員が集められていた。  鈴木室長が神妙な顔つきで話し始めた。 「みんな知っていると思いますが、今朝、京都府警の刑事さん、鑑識の方が来られました」  そこまで話して下を向く鈴木室長。数秒の沈黙が、言葉よりも深い悲しみを表現していた。すすり泣きが聞こえてきた。  涼子も自然と涙が溢れてきた。辛い報告だと理解していたが、改めて聞くと公子さんが殺害されたかもしれないショックは想像を遥かに超えて胸の奥に突き刺さった。ふと美咲を横目で見た。平然と前をジッと見据えて長い足を組んで、腕も組んでいる。威圧感半端ないし恐い。美咲さん、なに思ってんだろう。  涼子は、もしかして美咲がと想像して 「そんなバカな事ないわっ」 声を上げて、立ち上がってしまった。  「……すみません」 「三国さん、お気持ち分かりますよ。私もそう思ってます」  鈴木室長は、公子が殺されたかもという事について、涼子は打ち消す言葉をはいたと思っている。 「はぁー」  肯定なのか否定なのか、ギリギリの返事をしながら 涼子は座った。美咲は微動だにせず、長い足を持て余している様に組み直した。 「深泥池で発見された女性が今里 公子さんではないかと……お母様から警察に相談があったそうです」  鈴木室長はハンカチで目元を押さえて、それ以上話せなくなっていた。すすり泣きだった会議室は号泣の会議室になっていた。  鈴木室長の代わりに前島部長が説明しだした。 「まだ、御遺体が今里さんと決まったわけではないです。今日はDNA検査のために今里さんの私物を持ち帰られました。マンションには検査できるようなものがなかったらしいです。みんな、希望を持って今里さんはしっかりもんだ。きっと大丈夫だ」  そう言いながら前島部長も泣いている。 「泣いてない」  涼子はまた美咲を見つめていた。 「はぁー。フンッ。えー憶測を生まないよう今わかっている事実を説明しました。フンッフンッ外部へは漏らさないよう気を付けてください」  前島部長は鼻水を垂らさないよう息を吸いながらやっと話し終えた。  その時、部長のスマホが鳴った。 「ああああー」  スマホを手にした部長が小躍りするようににうろたえている。 「部長っ」  鈴木室長が駆け寄った。 「けっ警察に私の番号を教えていたんだ 結果が出たらすぐ知らせが来るように」 「早く出て、出て」  鈴木室長に急かされて、 「あああー」  部長はスマホを落としてしまった。  スマホは長い足を組んでいた美咲の元へ。 「はい、前島の部下で栗田と申します。前島の代わりにお伺いします。はい。はい。かしこまりました」 「何て、何て、何て、おおいっ、栗田くん」  前島部長はイライラしながら美咲の目の前で詰め寄っていた。  美咲は、無表情でスマホを部長へ返しながら 「深泥池の女性ですが。  DNA鑑定が判明しました。  公子さんのDNAと一致しました。  これから事情聴取に来られるそうです。  関係者の待機を承りました」    事務的に答えると、また美咲は長い足を組んで座った。 「あっそう。了解。じゃあ、みんなそういうことだからって。……ええーえええええー」  あまりに普通に受け答えする美咲のせいで 前島部長もいつもの軽いタッチの口調になっていた。話の途中で公子だったことに気付いて腰が抜けて床に座り込んでしまった。 「きゃー」 「そんなぁーいやぁー」  悲鳴が上がり、抱き合って泣いている者、机に伏せって顔が上げれない者も  会議室が鉛のような重い空気で包まれた。  1人を除いては。  その頃、ウラ受付事務所では総務社員2名が代行していた。  さすがに2名では忙しすぎて、パソコンに目をやりながら、鳴りまくる電話対応に追われていた。そんな時、誰かが訪ねて来た。 「あーーみんな会議室です」 「はい、お待たせいたしました……」  慣れないウラ仕事に四苦八苦の総務2名は その人物の異変に気付いていなかった。 「そうですか。わかりました」  その人物はウラ事務所を出て行った。  騒然とした会議室が一瞬水を浴びたように 静かになった。  その人物が会議室に入って来たからだ。    
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