桐島隆と美咲の結婚

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「……京…香…さん?」  涼子は驚きで立ち上がった。  疑問符がついたのは、いつもの京香とは明らかに違ったからだ。    田口 京香(26歳)は創業590年 京都祇園に本社を構える老舗呉服店 田口屋のお嬢様だった。  セミロングの黒髪は真っ直ぐ整えられていて、いつも薄化粧だが肌艶がよく、ふっくらとした頬は血色がいいのか自然に頬べにをさしたよう。温和な顔立ち、性格も穏やかで誰に対しても優しい。華やかではないが、愛らしいという言葉が似合う女性だ。  涼子はそんな京香のことが大好きだった。  会議室に入って来た京香は、目の下のくまが一番後ろに座っている者からも確認できるぐらい色濃く、ほおがこけて青白い顔、髪の毛は後ろに1つ無造作にたばねているだけ。 乱れ髪がふわふわ浮いている。  変わり果てた姿に、皆驚きを見せた。 「京香さん体調まだ悪いんでしょ。無理しないでください」  涼子が京香の元へ駆けつけた。   京香は3週間前から病欠していた。実家住まいで、母親から高熱が下がらず、体調不良の連絡は受けていた。オモテ受付代表で涼子がお見舞いに田口屋へ伺ったが、京香はまだ起き上がることもできず、伏せったままだと 母親から聞いていた。 「涼子ちゃん、ありがとう」  少し微笑みを見せてくれた。が弱々しく悲しげでもあった。涼子を席へ戻ってと促して 京香は1つ大きく深呼吸した。 意を決したように会議室中央へ 「前島部長、お話ししたいことがあります。よろしいでしょうか」  前島部長はは小刻みに頷きながら、マイクがセッティングされているステージ代を京香に譲った。  深々と頭を下げた京香。顔をあげた表情は 皆に初めて見せる顔だった。口を一文字に結び、眉間にシワが寄っている。 「私が……殺しました」  誰かが落としたハンカチの音が聞こえるぐらい、会議室は静まり返った。 「そんなっ、ウソっ、そんなわけない」  涼子が大声で泣きながら叫んだ。 「ごめんなさい。涼子ちゃん」  涼子を見て泣き出しそうになっていた京香だが、 「今から自首します。その前に皆さんへお話しします」  目線を会議室の後ろの方へ送りながら、少し顎を上げた。  はっきりとした口調から京香の強い覚悟が感じられた。  美咲は薄ら口元に笑みを浮かべて京香を見つめていた。  まるで、これから何が出てくるの。とメインディッシュを待っているかのように。
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