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「さて、田口京香さん」
第二幕の幕開けの一言を八代警部がはなった。
「……はい」
弱々しく返事をする京香。
「あなたは、神崎希美さんを殺したと告白しました」
「私です。私が殺しました。刑事さん。逮捕してください。おねがいします」
せきを切ったように懇願する京香だが、
八代警部は首を横にふった。
「そうよ、だって、深泥池のこと京香さん知らなかった。おかしいよそんなの」
涼子が八代警部と京香の間に割って入って来た。
「それは、もう、夢中で忘れていたの。今も普通じゃないわ。私。刑事さん警察で全て自供します」
「ダメっ。このまま警察に行ったら京香さん全部その通りですって警察のいいように供述させられちゃう。ダメダメ」
涼子は京香の前に両手を出して八代警部を睨みつけた。
「警察信用ないんですね」
長嶋刑事がポツリとつぶやいた。
「警察はそんなことしませんよ」
「嘘っ、お前がやったんだろっ、って机叩いて脅したり、認めたら楽になるんだぞって、
いやらしい顔つきで迫ったり、そんな所に
京香さん行かせられないわっ。」
「ドラマの悪い影響かなり受けてますね」
長嶋刑事は顎に手をやりながら、涼子を呆れたようにみつめている。
「被害者のため被害者ご遺族のため刑事は時に鬼にならないといけない瞬間があります。
でも間違った鬼の使い方をする刑事がいるのかもしれません。
私どもにそんな鬼刑事はいませんよ」
八代警部は涼子のとんでもない発言にも丁寧にそして紳士的に答えた。
長嶋刑事はハッとして八代警部の背中を見つめて少し笑った。
「警部を誇りに思うと感動したのに、ほころんでる」
くたびれた背広の真ん中あたりが破れてほころんでいたから。
「わかりました。では、田口京香さん
神崎希美さん殺害の自供をここで聞きます」
八代警部、長嶋刑事ほか5名の刑事は席に座って、田口京香は中央のマイクの前に再びたった。
「京香さんがんばって」
涼子の掛け声はよくわからなかったが
京香は涼子に微笑みを見せた。
「3月10日金曜日です。私は仕事が終わり
17時30分会社を出ました。
希美さんと清水さんのキスをしていた証言について不安がありました。希美さんが自分だと証言したのですが、確認したくて希美さんのマンションへ行きました」
「マンションは何時についたのですか。
あと神崎さんへ連絡はしてからですか」
長嶋刑事が詳細の確認を質問した。
「時間は19時前でした。連絡は私から会社を出て電話しました。希美さんは家で待ってると言ってくれました」
「ずいぶん時間かかってますね。30分で着くんじゃないんですか」
今度は八代警部が質問した。希美のマンションも把握済みのようだ。
「あっあの手土産を買ってました」
「京香さんらしいな」
京香さんはいつも優しい心づかいをしてくれた。歓送迎会や、新年会、忘年会、めんどくさくて嫌な幹事をいつも私やるわって。新人がやるべきなのに。そうだ、クリスマスイブのヤリメイ残業で残った4名にも、ごめんなさいってお菓子買ってきてくれた。涼子はまた涙が溢れてきた。
「何を買いましたか」
「駅前のアンジュというケーキ屋さんでマドレーヌと焼き菓子のセットです」
「うわぁ美味しそうですねぇ。私こう見えて甘いものに目がなくてね」
「はい、すごく美味しいんですよ。チーズケーキも大人気なお店ですよ。でも希美ちゃん苦手なんですよね。あっそうでした。タピオカミルクティも買いました希美ちゃん好きなので」
八代警部の包み込むような普通の会話で
京香はつい希美ちゃんと呼んでいた。
「タピオカですか。デンプン出ましたね」
長嶋刑事が小さな声で八代警部に確認した。
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