桐島隆と美咲の結婚

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「八代警部、強烈な人が出てきましたが、どうしますか」 「大事な証言だぞ。それに寄り添うのが刑事の仕事だ。黙って聞け」 「はいっ」  長嶋刑事は美咲の一挙手一投足を見逃さないように、壇上に集中した。 「京香ちゃん、会議室で事情聴取を待ってたとき」 「はい」 「私がキスを見た時間は?って聞いたの覚えてる?」 「はい。覚えてます」 「その時なんて言った?」    京香は黙ってしまった。 「満腹ラーメン屋の前を通った時、彼に今度行こうねって話た。その時ナビの時間を見たのよね。17時50分だった。その後交差点を通った際にキスをした希美ちゃんと清水さんを目撃した」  美咲が京香の代わりに説明をした。 「満腹ラーメン屋はその日臨時休業だったのよ。当然行列もない。シャッターは閉まって真っ暗。そんな会話するのかしら」  具体的な情報を入れながら、京香の証言の曖昧さを指摘した。  京香はうつむきながら、小さな声で 「嘘ついてました」  美咲の代わりにマイクの前に来て弱々しく話だした。 「彼に別れようと言われて、驚いて彼の横顔を見ました。彼はごめんと一言で……。 その時です。ナビの時間が目に入って17時50分でした。数分後キスしている2人をあの交差点で目撃しました……ごめんなさい」  京香の頬に涙がつたった。 「嘘じゃないですよ。誰でも彼から別れを言われたなんて、言いたくないです。別に時間はあってるんだし、証言に問題もない。 美咲さん、こんな大勢の前で京香さんに 何を言わせたいんですか。酷いです」  涼子が怒りをあらわにして立ち上がった。同時に抗議の狼煙があちこちで上がった。 「そうよね、そこ掘り下げる意味ないよね」 「美咲さんがキスしてたって言えば済む話でしょ」 「京香さん、かわいそう」 「わざわざ、フラれた話いらないよね。 酷い美咲さん」  美咲が勢いよくテーブルに両手をついた音が、バンッと響いた。 「うるさいわねっ。あんた達がウケるとか、ウケないとかどーでもいいのよっ」   美咲は刺すような視線を涼子達へ送った。 「警察に隙を与えたらダメなの。正確な証言でないと京香ちゃん。ほんとに犯人になるのよ」 「ウケるとか一言も言ってないんですが でも……私はバカ女だ」  鬼気迫る美咲の言葉に自分は薄い感情論をひけらかせて、美咲さんの言うとおりだと 涼子はバカ女を受け入れた。 「付け加えると、あるわよっ、           フラれたことぐらい」  美咲はサラッと意外な言葉を流した。 「えっうそっ。でも……」  涼子は、美咲が、フラれたことぐらい って言った言葉に、、、胸の奥が熱くなった。    美咲は静まり返った会議室を見渡した。 「希美ちゃんは殺された」  京香を見つめながら 「そして、京香ちゃんは殺人犯に……なろうとしてる」 「美咲さん」 「京香ちゃん、マンションに行った理由も嘘よね」   「本当です。……私が犯人なんです」  京香は頭を下げた。  美咲は珍しく、たぶん初めてだろう。  大きなため息をついた。 「ねぇ、刑事さん。犯人が自供している。物的証拠あり。供述通りの裏がある。 他に新犯人が浮かんでこない。今のままじゃ京香ちゃん逮捕ですよね。犯人になりますよね」  長嶋刑事はドキっとした。  数分前はそう思っていたから。  「いいえ、それはないです。あなたの証言を聞いてから判断します。聞かせてください」  八代警部は丁寧に答えて美咲にお願いをした。 「へぇーちゃんと聞いてくれるんだ」  美咲は怖いくらい美しく冷たい微笑みを 八代警部へ向けた。 「先に言います。これから話すことは私の推理です。物的証拠はありません」  八代警部を睨みつけながら宣戦布告をした。
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