嫉妬

桐島隆と美咲の結婚

「どうぞ」
185センチの桐島 隆は、佐伯 萌をエスコートする紳士のように背中を屈めて後部ドアを開けていた。

シンプルな 黒のシャツ、くるぶしが見える黒のパンツ。足元は大人気で完売しているサンダル。自身のブランドで身を固めた隆。
ほっそりとした体型、切れ長の瞳に太めの眉、すっとした鼻筋。
裏方だからとメディア露出は断っていたが、美咲がデザイナー桐島 隆の妻
という肩書きで読者モデルを始めて、ブログに自宅での隆の動画を勝手にアップ。たまたまコメディ映画を観ているところだった。
三日月のような目になって、くしゃっとした笑顔のギャップが悶絶。などと
SNSでトレンド入りした。
その後。美咲は人気ブロガー、モデル、カリスマ主婦など、いくつもの肩書きをもつインフルエンサーになっていった。
隆は読者モデルにスカウトされたという美咲に「僕の名前を使わないでほしい。モデルをするのはいいが」と言っていたが、美咲は初めから自分は桐島隆の妻だと雑誌社へ売り込んだ経緯で読者モデルになっていた。

隆と美咲は2年前に結婚した。

世界的デザイナーの桐島 隆は謎の人物だった。マスコミに一切出てなかったからだ。京都に住んでいる。個人情報はそれだけだった。

栗田 美咲29歳。京都本社 大手企業勤務。受付をやっていた。
「美咲さん、そろそろなんじゃないかな」
「確かに、何年受付やってるのって感じ。異動でしょ」
「あーー美咲さんみたいになりたくない」
給湯室での後輩の話を、廊下で美咲は聞きながら、ミネラルウォーターのペットボトルを右手で潰していた。
容姿端麗、美咲は自尊心過剰な女。
大学時代はミスコンで優勝。アナウンサーを目指したがダメだった。
庶民的なブスの方がいいのよね。私面接で君は綺麗すぎる。視聴者の反感をかってしまう。って言われたのよね。確かにアナウンサーってそんなにって人ばっかだもんね。就活中そんな話を周囲にして自尊心を保っていた。
面接の話はうそだった。本当は個人面接までたどり着いてもいなかった。