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うっすらと漏れる彼女の寝息が左耳をくすぐり、むず痒さがこびりつく。
それをかき消すためにラジオでもつけようと手を伸ばそうとするが、彼女の眠りを邪魔するわけにはいかないと既の所で指は止まる。
このむず痒さの正体を知っていた。
彼女の無防備な姿が俺の罪悪感を掻き立てているのだ。
俺のしていることは正しいことなのか。
定期的に訪れる疑問だ。
俺と交際した女性は、決まって幸せな表情を浮かべる。これを見ていると良いことをしてるようにも思え、それで自己を正当化していた。
だけど、心の奥まではごまかせない。
交際してきた女性は笑顔を見せることが多くなり、上機嫌に愛の言葉を口にし、中にはこれからの俺との将来について考え始めるような者もいる。
当の本人は、この恋に期限があることを知らない。
当の本人は、俺が偽物の彼氏であることを知らない。
「……気持ちわりぃ」
ハンドルを握っている俺が、車酔いをすることなんてないだろう。
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