1.結愛

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「ありがとう」 彼女は、透明のプラスチック容器に入ったコーヒーを持って戻ってきた俺に礼を言う。 「確か甘くする派だったよな。ミルクとガムシロ取ってきたけど」 結愛はその言葉に頷いて、コーヒーとそれらを一緒に受け取る。 「そういえば知ってる? これって本当のミルクじゃないんだって」 彼女は何か思い出したように、得意げに小さなプラスチックの入れ物に入ったミルクを親指と人差し指で摘まんで見せてきた。 「そうなのか」 薄々分かっているようなことではあるが、話の腰を折るのも申し訳ない気がして、とりあえず興味深そうに彼女の目を見る。 「コーヒーフレッシュって言ってさ。ほんとは、植物油を白く着色してミルクっぽく見せたものなんだよ」 「ふーん。じゃあ、何か騙された気分だな」 そう言って俺は笑い、コーヒーに口をつける。いつもブラックで飲んでいるはずなのに、口をつけたコーヒーは思いのほか苦く感じた。 「どうなんだろうね」 彼女は慣れた手つきで手に持つコーヒーにガムシロップを溶かす。そして、その後コーヒーフレッシュを加えた。 「偽物のミルクでも、こんなに綺麗に混ざり合う。知らずに騙されてる分にはさ、コーヒーも悪い気はしてないんじゃないの」 彼女は目を細めながら微笑み、ストローでコーヒーを混ぜる。コーヒーフレッシュの白が渦を巻いてコーヒーの中に消え入るように溶け込んでいく。まるで、無垢な白が黒に犯されてるかのように。
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