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偽物のミルク、その表現にドキりとさせられた。
今の俺みたいだなんて、勘ぐってしまった。彼女のことを好きでもないのに、必死にすがりつくように理想の恋人を演じながらも、内心ではこの依頼の報酬にしか目がいっていない俺みたいだって。
本当は植物油なのにミルクのふりをしてるコーヒーフレッシュと、本当は金目当てのくせに彼氏面をしてる俺が重なって見えた。
もしかしたら、彼女は俺の本心を見抜いていて、遠回しにそのことを伝えようとしていたのではないだろうか。はっとさせられるとともに顔を窺うが、穏やかな表情でストローに口をつける彼女からは本心を掬い上げることができない。
深読みかもしれない。だけど、もし本当に俺の気持ちがばれていたのだとしたら。
気づけば冷や汗が体を伝っていた。
心臓は騒ぎ立てるように激しく動き出しているのに、適切な返答を見つけだせず、口は固まったように動かない。
無言の間が車内の空気を張り詰めさせる。
その静寂を破ったのは、結愛だった。
「私さ」
どこか遠くを見つめるような眼差しで前を見たまま彼女は徐に口角を上げた。
達観したようなその笑みが怖かった。
正体が見透かされているようで。
「本当は女の子が好きなんだよね」
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