1.結愛

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「あの子外見にはすごく気を使うのよ。異性に興味ないことはないと思うんだけど」 当の依頼主も年齢不相応に派手な身なりをしているものだから、仮に外見に気を使う女性が異性に興味あるとするならば、思わずそう言うあなたも浮気願望でもあるのかと皮肉を言いたくなる。だが、俺は依頼の受託側であり、お金を頂く側だ。 ただただ事務的に手元で広げた手帳を見るしかない。 今月末には一案件片付き、来月からは暫く担当の女性が空きになることを確認すると、改めて申込書に目を通し、再び依頼主に視線を戻した。 「3か月は難しいですね。半年なら引き受けますが」 「半年も付き合って別れたら、多少なりとも傷つかないかしら」 「それはそうです」 俺だって客には必要以上に介入しないようには気を付けている。 「だから、実際に付き合うのは3か月です。そこまでに至るのにもう3か月を要する計算です」 「あら、私が紹介するわよ」 「いや、そういうわけにもいかないんです」 女性を相手にする、ましてや交際相手になるというのはそう簡単じゃない。 だからこそ、確実でありながらも相手を楽しませられるように近づけるよう心がける。身辺調査から入り、女性と付き合うまでの完璧なストーリーの構成、そして俺自身がその役に入り込むとこから作り上げていく。 紹介やナンパなど一度きりのチャンスにかけるような、悪い印象を与えてしまえばこの後の可能性も消えかねない手段はまず選ばない。 依頼主の女性は、突然の想定期間と費用の倍増に多少は困惑したものの、少しばかり悩んだが、娘の将来の方が大事だと自分に言い聞かせたのか、すんなりと契約には合意した。
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