7人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「じゃあ後は頼むわね。娘の結婚がかかっているのよ」
「まあ、上手いことやりますので。今回をきっかけに少しでも恋愛に前向きになれればいいですね」
「ちゃんとあの子に幸せを教えてあげてね。昔は変な男に靡かないからいいと思ってたけどいい歳してもあれだと本当に可哀想」
「勿論です。彼女に素敵な時間を提供することが俺の役目なので」
依頼主を外まで見送り、事務所の入り口に貼ってある「完璧な彼氏と過ごすひと時を大事な人にプレゼントしませんか!?」のチラシを剥がす。これで、半年は依頼を受ける必要がなくなった。
事務所の中に戻り、再び席の戻ると窓を開け、煙草を一本咥える。
仮に、俺との交際をきっかけに、その後恋愛に積極的になり、結婚ができたとして、それは本当に彼女が願う幸せなのだろうか。
こんな依頼をしてくる親は決まって、結婚できない女は惨めだとばかりに唾を飛ばしてくる。それのおかげで仕事もあるのだから、簡単にそれを親のエゴとまでは言い切れないが、どうしても気持ち悪く感じてしまう。
吐いた煙の行方を辿ると、半開きの窓の先には空に浮かぶ入道雲が歪に捻じれ、人の欲望もこんな形をしているのだろうかなんて考えた。
最初のコメントを投稿しよう!