1.結愛

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俺は、橋本結愛が常用するクリーニング店のバイトとして勤務していた。 出勤時にはシワひとつないスーツをいつも着込んでいることから容易に想像ついたように、彼女は小まめに仕事着をクリーニングに出す習慣があった。 そこで、彼女がよく利用する夜の時間帯のシフト勤務として雇われ、少しずつ顔を合わせる回数を増やしていた。 恋愛心理学ではザイオンス効果と呼ばれる、視界に入る程度の単純な接触回数を増やすことで、相手が次第にこちらを警戒しなくなってくるという現象がある。だから最初はとにかく自然に彼女の生活圏に入り込み、警戒を解くことだけを意識していればよい。 そして次第に気の利く店員を装い、アプリのクーポンを勧める業務的な会話やサービスで割引券などを配布したりすることからコミュニケーションを始め、自分の存在を理解し始めたタイミングで店内で世間話をするまでの関係にまで発展させる。ここまで1ヶ月。 そして今日、彼女とプライベートで偶然遭遇したことをきっかけにお互い心を開くようになり、店員と客といった関係から男と女という関係へと進める。ここまで2ヶ月。 あと1ヶ月でデートに誘うなどでより一層異性として意識させれば、もう付き合うことも難しくもないだろう。依頼主であった母も、彼女が恋愛に消極的であると嘆いていたくらいなのだから、これくらい時間をかけて運めた方がいいだろうと着実な手順をとっていた。
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