第1セクター 『大輔』と『ダイスケ』

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 下手をすると私は火だるまになって、ここは公開処刑場になるのかもしれないと、美奈子の胸中に不安がよぎる。おそらくダイスケの一挙手一投足が懐疑的な目で見られることだろう。はたしてダイスケにあのレポーターをうならせるようなレスポンスを見せることができるのだろうか。  最初にこの番組出演のオファーを受けたとき、開発部門主任の南雲はそんな悪意があるとは微塵も思わなかったのだろう。けれども詳細を知ると心配になったようで、直に見に来ている。  その南雲が、取材が始まる前に美奈子に伝えていたことがある。南雲の助言によると、厄介なのはレポーターだけではなかったようだ。 「あそこにいるのが、有名なフリージャーナリスト、『赤井(あかい) 瑪瑙(めのう)』、通称『アカメ』だ。気をつけたほうがいい」  悪名高いジャーナリストで、マネーロンダリングやインサイダー取引などのしっぽを掴んで企業をゆする輩らしい。他、芸能人の薬物関係、政治家の身内の裏口入学、あらゆるネタを食い物にするとのことだ。ネタをつかむと何日も寝ないで標的を追いかけ続けるため、目が真っ赤になり、アカメと呼ばれている。その執念は背筋を凍らせる程のものだ。  美奈子がその男に目をやる。見上げるくらいの上背があるが線が細い。ボサボサの髪に無精髭、額には脂汗が浮いていてあまり清潔とは言い難い。そしてどことなく陰湿な空気を漂わせている。年齢は三十半ばくらいに見えるけれど、実際のところはもっと若いのかもしれない。ひと目見ただけで、あの人苦手、近づきたくもない、と美奈子は直感した。だからなおさら失敗するわけにはいかない。
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