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「お、楝。見てみろ!」
青年に掛けられた声で、少女は現実へと引き戻された。どうやら思考に没頭していたようだ。
青年の意図が分からず、少女は疑問符を浮かべながらも、知らずに俯いていた顔を上げる。
するとそこには、雲の隙間から陽の光がいくつもの柱ように、空から降り注いでいる様子が見えた。
どうやら、雨が上がり始めたようだ。
「天気予報、外れましたね」
「みたいだな」
晴れ間が見え始めた空を見ながら、二人は呟く。この様子では、完全に雨が上がるのも時間の問題だろう。
恩師へのプレゼントも、濡れずに済みそうだ。
「今度からは天気予報、ちゃんとみないとですね」
「う……。もういいだろう、その話は」
居心地悪く言葉を濁す。それに小さく笑うと、少女は再び光が差し込む空を見上げた。
わたしは、過去に生きる亡霊。闇に潜み、闇に巣食う迷い子達を屠る者。
けれどーー
そんな日常の中でも、確かに掴むことはできるのだ。
今日のような、何気ない『小さな幸せ』をーー。
おわり
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