雨下がりの午後に

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雨粒が落ちてくる空を見上げながら、わたしは考える。 あの日全てを失ったわたしは、未来を捨て亡霊として生きることを決めた。 無論、そのことを後悔したことは一度もないし、今もその気持ちは変わっていない。 しかし、変わったこともある。 亡霊として生きるために捨てた、ヒトとしての感情。今のわたしには、確かにそれが再び宿っている。 もう宿すことなどないと考えていた笑みを、こうして口元に浮かべながら。 時の流れや彼らとの触れ合いが、再びそうさせたのか。最初はそう考えた。 しかし、そうではない。 おそらく、本当は捨てきることができなかったのだろう。 だからあの日、何気なく聞いていたあの花のことを、後でこっそり調べたりしたのだろうか。 菫には『誠実』という花言葉の他に、もうひとつの花言葉がある。 それは、『小さな幸せ』 あの時、何故彼はその言葉を口にしなかったのか。当時のわたしには、その理由を考えようとすらしなかった。 しかし今なら、その理由がわかる気がする。 彼には、わかっていたのだ。あの頃のわたしには、この花言葉のような『小さな幸せ』ですら、捨て去ったものだった。だから、この花の言葉を口にしても、わたしに響くことはなく、そこに込めようとした彼らの願いも届かないだろうと。 彼はあえて、その気持ちを花言葉とともに、心に留めておくことにしたのかもしれない。 わたしは、本当に愚かだ。 かつてのわたしは、ヒトであることを捨て、完全な亡霊となることを望んだ。 しかし、わたしも所詮はヒトだ。たとえ己からそれを捨て去ろうと、ヒトがヒトである限り、感情を、心を捨てることなどできないし、ヒトとしての小さな幸せを捨てることも、決してできないと。 そのことに、気がつくことができなかったのだからーー
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