幻の自画像

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僕の名前は『一颯(いぶき)』、大学を卒業して静岡の建設会社に就職した25歳の平凡な独身の男性会社員だ。 父と母はすでに天国に旅立っていて、僕は富士宮市内の父と母が残してくれた家で独り暮らしをしている。 会社の仕事にも慣れてきて毎日が同じことの繰り返しで刺激がない僕は、何か面白いことはないかと仕事から帰って毎夜インターネットを徘徊していた。 そんなある日、インターネットで不思議な記事を見つけた。 その記事には、こんなことが書かれていた。 富士山周辺の青木ヶ原の樹海には、数多くの洞窟がある。 この洞窟の1つに氷穴があり、この氷穴はとても寒く、奥深くまで続いているという。 この洞窟の一番奥に『幻の自画像』と呼ばれる絵画があるが、この絵画を目にした人物はいないと書かれていた。 僕はこの記事にとても興味を持って、いつかこの絵画を見てみたいという強い欲求に駆られた。 ある日いつものように会社に出社して、お昼休み時間にいつも一緒に昼食をとる同僚の『篤仁(あつと)』と社内食堂のテーブルに対面で座って食事をしながら話をした。 いつもはたわいもない話をしているが、この日の僕は篤仁にインターネットで見つけた洞窟の記事の話をしてみた。 すると篤仁は少し顔色を変えて、 「まさか見に行こうと思っている?」 と言い出したので僕が、 「うん、いつか『幻の自画像』というのを見てみたいと思っているよ!」 と話した。 篤仁は食べることを止めて少し血相を変えて、 「やめたほうがいいよ!」 と言い出した。 「何で?」 僕が率直に質問すると篤仁が、 「実は僕は、その洞窟に行ったことがあるんだよ!」 と話してくれた。
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