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(エレス……)
ジュリアンは、エレスチャルの入った皮袋を握り締めた。
あの事件以来、ジュリアンはエレスチャルを眺めることさえしなかった。
大好きだった自慢の石だが、それを見ると、ポールの顔が思い出されてしまう…
自分のちょっとした不注意からポールを死に追いやってしまったと言う意識が、ジュリアンの心の中からはいまだ拭い去られてはいなかった。
また、あんなことになったら…
そう考えると、エレスチャルを見るのが怖ろしい。
だけど、大好きな石だ。
あの特別な力だけなくしてもらえれば、こんな想いをすることもない…!
単純にジュリアンはそう考えたのだ。
ジュリアンは、恐る恐る皮袋の中からエレスチャルを取り出した。
その石を掌に載せると、ひんやりとした冷たい感覚がジュリアンに伝わった。
なのに、その表情は暖かい…
幾重にも折り重なる結晶をのぞきこむジュリアンの口からは感嘆の溜息が漏れる。
(エレス…俺は……)
ジュリアンが石の中のエレスに語り掛けようとした時、扉をノックする音が部屋に響いた。
「ジュリアン、いるか!」
扉の外から聞こえる声は、先程別れたラリーのものだった。
「あぁ、今、開けるからな。」
扉を開けると、にこやかな顔のラリーが立っていた。
「ちょっと早かったか?」
「……いや、別に構わないぜ。」
「そうか、良かった。
実は、早く行けってスージーの奴に追い出されてな。
なんでも、ドレスの裾に自分で刺繍をするとかで、俺がいたら気が散るんだとよ。」
そう話すラリーの顔は喜びに溢れている。
「スージーは、結婚式が楽しみで仕方ないんだな。
じゃあ、行くか!
今夜は久しぶりに飲むぞ~!」
二人はそのまま近所の酒場へ繰り出した。
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