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酒場に着いたラリーとジュリアンは、他愛ない話をしながら酒を酌み交わした。
数ヶ月前に飲み友達が引っ越してから、酒場で酒を飲むのは久しぶりだとラリーは上機嫌で話した。
ジュリアンもポールのことがあって以来、楽しい酒を飲んでいなかったこともあり、二人はまるで旧知の友人同士のように打ち解け、楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。
「ジュリアン、ちょっとだけうちに寄って行かないか?
この時間ならもうスージーも寝てるだろうしな。
実はとっておきの酒があるんだ!」
「こんな時間にお邪魔しちゃ悪いんじゃないか…」
「なぁに、台所でこっそり飲んでりゃスージーも気付かないさ。
スージーの荷物で、家の中は、今、ひっくり返ってるけど、気にしないでくれよな。」
ほろ酔い気分の二人は、ラリーの家に向かった。
「あそこが俺の家だ!」
ラリーが少し離れた一軒の家を指差した。
「あれ?まだ灯かりがついてるぞ。
スージーはまだ起きてるんじゃないか?」
「あいつは、俺と違って昔から夜には弱いんだ。
この時間にはもうとっくに眠ってる筈なんだが…おかしいな。」
「刺繍は時間がかかるから、頑張って縫ってるんじゃないか?」
「そうかもしれないな…!
でも、まぁ良いさ。
お~い、スージー、今、帰ったぞ~!」
扉を開けたラリーの顔から微笑みが消えた。
「どうした?」
ラリーの肩越しに中をのぞきこんだジュリアンの動きがぴたりと停まる。
「お…お、おまえ、そこで何を…」
ラリーの口から絞り出すような声が漏れた。
そこには、真っ赤な血溜まりの中に倒れるスージーと、その傍らに寄り沿い、スージーの髪を愛しそうに撫でる血まみれの男の姿があった…
「やぁ、ラリー…
久しぶりだね。
スージーは…僕のものだ。
僕だけのものなんだ。
……他の誰にも渡さないよ…」
「ディック、て…てめぇ!!」
掴みかかろうとするラリーに、ディックと呼ばれた若い男は、狂気染みた叫びと共にラリーに向かって鋭い刃を向けた。
ラリーとディックは激しくもみあい、ラリーがようやくディックの腕を捕らえた所に、ジュリアンの固い拳が男の頬を殴りつけた。
男はその衝撃に意識を失い、力をなくしたその手からナイフが零れ落ち、乾いた音を立てた。
「スージー!!」
駆け寄り、ラリーが抱き上げたスージーの身体には、もはや魂は宿ってはいなかった…
人形のように力をなくしたスージーの身体をきつく抱き締め、ラリーは何度も妹の名を叫ぶが、その愛らしい口許から返事が返って来ることはない…
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