抱いて ちゃんと 抱いて 10

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抱いて ちゃんと 抱いて 10

* 珀英とログハウスでセックスした後、二人とも色んな体液まみれだったため、濡らしたタオルで軽く拭いた後、服を来て母屋の方へ向かった。 さすがにログハウスにシャワーまではなかったし、布団もないので、オレが泊まるには母屋に行くしかなく。 仕方なく歩いているけど、いつの間にか夕方になっていたため、雪が凍ってて滑って転びそうだし、寒いし。 息が真っ白で、さっきまで熱かった体が一気に冷えて、凍えそうになっている。 東京とは全然違う種類の寒さだった。 オレは珀英に手を握られて、引っ張られるままに、だだっ広い庭を歩く。雪道を歩き慣れていないので、何度か転びそうになるのを、珀英が抱きとめて支えてくれた。 そろり・・・と。手を握ったまま珀英の体に体を寄せる。手と腕を絡めるようにして、珀英にしがみつく。 珀英は一瞬驚いたようにオレを見て。 ふんわりと、嬉しそうに、本当に幸せそうに微笑む。 相変わらず、犬みたいなやつ。 丸い瞳を細くして、少しぽってりした口唇の口角を上げて、嬉しそうに嬉しそうにオレを見て微笑む。 背が高くて、金髪ロン毛だから、ゴールデンレトリーバーを飼ってる気分になる。 思わず頭を撫でたくなる衝動を堪える。 出そうになった手を強い意志で下げていると、珀英が少し気まずそうに口を開いた。 「そういえば・・・こんな所に来ちゃって大丈夫なんですか?」 「何が?」 「美波(みなみ)ちゃんはいいんですか?」 「ああ・・・旅行に行くって言われたから、大丈夫」 「そうですか・・・」 珀英はちょっと申し訳なさそうに口をつぐんだ。 「大丈夫だって。ここ最近は正月は旅行行くのが向こうの恒例行事なんだから」 「はい・・・」 オレは珀英の頭をポンと撫ぜる。 美波というのは、オレの娘だ。 オレが二十歳の時に生まれた娘で、若くして結婚したはいいけど、何だかんだで上手くいかなくなって、結局離婚して。 娘は元嫁が引き取って育てている。もちろん、養育費はきちんと払っているし、月一の面会も欠かしていない。 公にはしていないけれど、珀英と付き合うかも?という関係になった時に、珀英には全てを話していた。 事務所のスタッフやバンドのメンバー、友達はもちろん知っていたが、部外者で打ち明けたのは珀英が初めてだった。 もしも、娘がいることを知って珀英がオレから離れるなら、仕方ないと覚悟していた。 でも、珀英はそれでもオレが好きだと言ってくれたから。 だから、オレも好きになった。 男だし、三十路だし、10歳になる娘がいるし、バツイチだし、我が儘だし、神経質だし、口うるさいし・・・良い所なんてないのに。 珀英がオレを好きでいてくれる理由なんて、全然わからない。 わからないけど、珀英はオレを好きだから。 オレのものだから。 誰にも譲らないし、渡さない。 元カノにだって、絶対に。 絶対に譲らない。 珀英が浮気したって無駄だ。 そんなことして、オレから逃げようとしたって、できないから。 珀英が好きになる人で、オレ以上に好きになる人はいないし、オレ以上に珀英を満足させてあげられるやつもいない。 どんなに足掻いても、珀英はオレに帰ってくる。 何の根拠もない自信。今はそれだけで充分だった。 「旅行から帰って来たら、会ってあげて下さいね」 「へ?」 「でも・・・ちゃんと帰ってきて下さい」 珀英が少し淋しそうにしながら、それでも強がって微笑んでいる。 自分は後回しだって、そう思ってる。 オレは立ち止まって、珀英の腕を引っ張って、引き止めた。 珀英は反射的に止まって、不思議そうにオレを見つめる。 「緋音さん?」 小首を傾げて、不思議そうに目を丸くしている。オレはそのおデコに軽くデコピンをした。 「痛っっ!」 思わず目を瞑って痛がっている珀英の、頬を包んで引き寄せる。 触れるだけのキスをすると、珀英は痛みも忘れたのか、顔を赤くして何も言えずにいた。 「オレは貪欲なんだ。だから、どっちも大事だし、手に入れる」 「え・・・?」 「お前と美波と、どっちか選ばなきゃいけないのか?何で?オレはどっちも好きだし、愛してるし、手放す気はないぞ」 「緋音さん・・・!!」 珀英がオレの背中を腰を強く引き寄せて、ぎゅーーーーっと抱きしめてくる。 頬に、瞳に、額に、耳に、口唇に、鼻に、首筋に、アホみたいにキスをしてくる。 「ちょ・・・やめろ!バカ!」 「好き、緋音さん、好き。大好き。オレ浮気なんかしてないから!これからもしない!緋音さんしか好きじゃないから!」 「わかった!わーーーったから!!」 一生懸命珀英の胸を押し返して、キスから逃げようとしながら、逃げないという。ただただイチャイチャしていただけの状況で。 黄昏時で薄暗くなっているとは言え、まだ充分視界がきく状況で。 母屋のほうから年配の男性が、こちらをじっと見ていることに気づいた。 オレが気づいたことがわかったのか、いきなり目をそらして奥へ引っ込んでしまった。 あれ・・・もしかして、珀英のお父さんでは?? 「緋音さん・・・好きだよ。大好き」 珀英はオレをぎゅっと抱きしめて、大事そうに愛おしそうに頭を撫ぜてくれている。 オレはお父さんらしき人の姿が頭から離れなくて。 嫌な予感がする。 何だか・・・とっても。 嫌な感じがする。 Fin
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