看板のない紅茶屋さん

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 背中に扉が閉まる音がした。  前には、焦げた茶色の長いカウンターと、同じ焦げた茶色の壁一面の棚。  そして天井まで並ぶおびただしい缶の数。  微かに軋む木の床をゆっくり歩いて、お邪魔します。  色んな形の、色んな種類のポット。  色んな形の、色んな模様のカップ。  レジの横にあるグラスに一輪飾られた白い花。  生物部は植物と動物で二つあって、俺は植物の方──この花は……カモミール、だっけ──。 「──カモミール」 「えっ、あ、ど、どうも」  カウンターの中の横から、すっ、と人が出てきて驚いた。  っていうか俺今、声出してたっけ?  っていうか同じ学校の制服の、女の子。 「いらっしゃいませ」
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