看板のない紅茶屋さん

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「好きだったな」  そう言った彼女も俺に続いて口をつけた。  言葉はいらない、飲んだら、この紅茶が教えてくれた。  俺はこれが好きだって。 「お前って変な奴だな」 「お前は失礼な奴だな」 「あー……だって名前知らねぇもん」 「あたしは知ってるよ、小鳥遊(たかなし)君」  俺の名前、小鳥遊。 「お前が写真部の活動してる時、近くを通った」  生物部ともう一つ所属してる部活は、写真部。  多分校内で、風景かなんか撮ってた時か? 「何を撮ってるんだろうって、小鳥遊の視線を辿ったら、昼の空に夕の陽があった」  こんな感じの濃い色、とグラスを掲げる。  そんなの、俺にはただの一枚の写真。
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