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(四)
「ねえ、知ってる? クローバーの花言葉。幸運以外にも色々意味があるんだって。私のことを思い出してとか、私のものになって、とか。その中にね、三つ葉のクローバーにはね、復讐っていう意味もあるんだって。約束とか、初恋とか、そういう意味もあるのに、復讐だって。だから、そんな花言葉は嘘だと思っていた。何かの間違いだって思っていた。そして昨日、読んでいた本に挟んであったしおりが落ちたの。押し花にした四つ葉のクローバーで作ったしおりが。そのときにクローバーの葉っぱが、一つ落ちてしまったの。四つ葉だったのに三つ葉になってしまったの。そのときは全然気づかなかった。そんな怖い花言葉があることも完全に忘れていたわ。でもあなたの部屋に入ってから、玄関のドアを開けて、中に入って、部屋のドアを開けて、そこであなたのあんな姿を見るまでは。でも、思い出しちゃった。あなたの姿を見た瞬間に。ベッドの上のあなたの姿を見た瞬間に。見たことのない女と一緒にベッドに横たわっているあなたの姿を見た瞬間に。その後、どうなったのか、何をしたのか、何が起きたのか、私は全く覚えていない。でも今この状況を見ると、多分、全部私がやったのだと思う」
私はそう言った後、血まみれになって横たわっている女の腕を掴んでベッドから引きずり下ろしてどかした。身長が低く体重も五〇キロ少しくらいしかない体だったが、すでに肉の塊となった体は重かった。あなたが連れ込む女だから、きっとカワイイ子だったでしょうね。今は以前の容貌が全く想像もできないほどになってしまっていたけど。
女の体を床にようやく放ってから、私は床に血まみれで倒れている彼を抱き起こした。そしてベッドへ乗せようとした。でも重くて持ち上がらなかった。目を見開いて天井を見つめたままの彼の顔に、私は顔を近づけた。
「プロポーズまでしておいて、他の女と寝るなんて……。お仕置きよ」
私は彼の腹に刺さったままになっている包丁を左右にぐりぐりと回した。
「絶対に許さないのだから……。二度としないでよネ」
そう言って私は、彼の頬に手を添えて彼にキスをした。
(了)
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