便利な世の中

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便利な世の中

 便利な世の中になったものだ。自宅にいながら、買い物ができる。  とはいえ、一昔前に流行った、インターネットで商品を選択して、購入ボタンを押すものではない。自宅にいながら、近くのスーパーに行って買い物が出来るのだ。  重田安奈は、テレビにレーザーを当てて「近くのスーパー」を選択した。それから、リビングのソファーに座って少し待った。「準備が出来ました」の音声が聞こえると、ショッピング用バーチャルゴーグルと、セットになっている手袋とスリッパを身に付けた。そしてゴーグルを被ると、目の前はスーパーの入口だった。  買い物カゴを取り、少し進んでリンゴを見た。手にとって比較的傷んでないものを手に取り、カゴに入れた。 「自分で手にとって物が選べるから、便利よね」  そう呟いて、牛乳のところに行った。棚の奥のほうから賞味期限が長いものを取り出して、カゴに入れた。 「手前のやつでも、十分賞味期限あるんだけどね。スーパーにとっては迷惑な私の悪い癖」  お惣菜コーナーを見ると、店員さんが割引シールを貼っているようだ。にぎり寿司十個入りに、三割引のシールが貼られた瞬間、手にとってカゴに入れた。 「今日の夕飯は、寿司になっちゃった。まあ、いいか」  買い物するものを一通りカゴに入れ、レジへ向かう。それから、クレジットカードを渡して支払いをする。 「ありがとうございました」    買い物は終わったので、安奈はゴーグルと手袋を外し、テレビにレーザーを当てて「買い物終了」を選択する。 「今日はうまく行った」とホッとして、ソファーに寄りかかる。  しばらくすると「到着しました」の音声が鳴り響く。  安奈は、玄関口横にある、ロボットスペースを覗く。そこには、買い物したものが入った袋を持った、ヒトの形をしたロボットがいた。  そう、これはロボットが代わりに買い物に行くシステムなのだ。テレビで「近くのスーパー」が選択されると、ロボットは自宅から出動して、スーパーへ行く。スーパーに到着すると「準備が出来ました」と言う。買い物中は、安奈の手足の動きに合わせて動く。レジでは、あらかじめ持っていたクレジットカードを渡して支払いをする。「買い物終了」が選択されると、ロボットは買った品物を持って帰ってくる。こんな流れだ。  買い物は、時々失敗する。レジで、クレジットカードを手渡せなくて、支払いが出来なくなるのだ。ロボットがカードを持っていくので、スーパーへ向かう途中に簡単に盗まれてしまうからだ。ロボットに泥棒に抵抗するプログラムはされていないから、本当に簡単だ。そういうことが起こる度に、安奈はクレジットカード会社に連絡する。 「カードを使用停止にして、再発行して下さい」  それから、別のカードで、もう一度買い物をする。非常に面倒だ。  直接買い物に行った方が楽な気がする。しかし、もう行けないのだ。  西暦2070年の現在では、多くのものがロボット任せになって、人間はあまり歩かない。そのため、町中はロボットばかりだ。カードが盗まれるときも、悪意のある人間が作った他のロボットに盗まれる。彼らは、ロボット同士で衝突回避は出来るが、人間を感知できない場合がある。買い物に出かけるなどしたら、速いスピードで動くロボットに追突されて、致命傷を負ってしまうだろう。  また、人間はあまり歩かないせいで、足腰が弱ってしまい、長い距離を歩けない。スーパーまでたどり着けるかどうか…。  そして、あまりに多くのことを覚えておかないといけない。ゴーグルのボタンの位置や使い方、そしてテレビと連動するための設定など。    便利な世の中になったものだ。自宅にいながら、買い物ができる。  本当にそうだろうか?    安奈はこの時代に生まれて、これが当然だと思っている。ロボット任せでヒトは楽になり、便利になったと感じている。 (完)  
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