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01 キャンパス
入学式の次の日ともなれば、多少は人の出入りも落ち着いているのだろう。岡見のそんな予測はあっさりと裏切られた。
日の光を受けて白く輝くように咲き乱れる桜の木々。
コンクリートの上にせせこましく置かれガタつく長机とパイプ椅子。
代々受け継がれているのであろう色とりどりのサークル旗。
太く丸いフォントでつづられた「新歓イベント日程」「説明会」「交流会」などの文字が躍るポスターとチラシ。
そして、思い思いに新入生歓迎・勧誘の言葉を並べ立てる学生たちの、叫びにも似た声の交差。
自分を含む新入生らの服装が黒いスーツでなくなったこと以外は、昨日とほとんど変わらない景色が岡見を出迎えた。
「めっちゃ人いるね。昨日と同じくらいかな」
「ああ……ちょっと舐めてたな」
「マンモス校ってすごい」
隣を歩くヒナタは、行きかう人の波に負けじと明るい声を張り上げている。岡見は既に気力を削がれていた。
これほどの喧騒の中でサークル探しに精を出したところで、実りある結果を得られるとは思われない。
サークルとはいわば部活のようなもので、基本的には今後4年間(うっかりしているとそれ以上)、継続して身を置く場所となると岡見は考えている。
昨年大学を出た姉は、高校生活の延長のごとく吹奏楽の活動に励んでいた。
せっかく金と時間をかけるならば、自分の興味と向き合い、加入するべきサークルをしっかりと見極める必要がある。
まずはサークル情報が体よくまとめられた冊子をもらうか買うかして入手し、気になるサークルのSNSなどを探し当てて雰囲気を掴むことができれば、第一段階の情報収集としては十分なのだ。
それにもかかわらず岡見は春の陽気の下、キャンパスじゅうを席捲するどんちゃん騒ぎのど真ん中に飛び込んでしまった。
(ヒナタのせいだ)
そう心の中で毒を吐く岡見は、それが「自分のせいだ」と同義であることをいやというほど分かっている。
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