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〜5年後〜
″蘇生″と名付けられたその絵はこの国で一番権威のある公募展で大臣賞を受賞した。
死を象徴する桜の木が灯籠流しの川に映り込み、水面で光の花を咲かせるというコンセプトで描かれたその絵は多くの人々を魅了し、それまで無名であった、その作者の名前は国内全土に広まる事となった。
でも、俺にとって、本当に欲しかったのは目の前の墓で静かに眠る女性の評価だった。
「随分、待たせちまったな」
俺は″蘇生″の写真を飾りながら、物言わぬ相手に話しかける。
「お前が俺にどんな絵を描かせようと思ってたか、もう分からないけどさ。これが精一杯だ。だから……いい加減、認めてくれよ」
それでも、鹿江は何も答えてくれない。
当たり前だ。これは単なる俺の自己満足なのだから。
そして、その後もその自己満足と言える独り言を長々と続けた。
「久しぶりに話せてすっきりしたよ。……じゃあ、またな」
そう最後に言って、帰ろうとした時だった。
「あ、あのっ……!」
突然の声に驚き振り返ると、小学生ぐらいの小さな女の子が立っていた。
「もしかして、この絵を描いたのおじさん?」
「……あぁ、まぁな」
俺がそう言うと、少女はぱぁっと目を輝かせた。
「この絵に興味があるのか?」
「その絵、テレビで見た時にすごい″面白い″絵だなって思って!」
「″面白い″……か」
「なんか変なこと言っちゃいました?」
「いや、そんな事無いさ。俺が一番言われたかった言葉だ」
「んー?」
「ありがとうな。今日、君に会えて良かったよ」
少女はよく分からないといった顔をしていたが、それで良いと思った。あえて説明する事でもない。
「さてと、じゃあ、行くわ。またな」
「もう、帰っちゃうの?」
「いや……帰ってきたのさ、この……いろとりどりの世界にさ」
ふと、足元を見ると、白いアネモネの花が咲いていた。
「また、絵を見せに来るよ」
俺がそう言うと、希望の風花はそれに答えるように小さく小さく揺らめいていた。
fin
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