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まただ。またこいつだ。俺は目の前にある大賞というプレートを付けられた絵画を苦々しく見つめていた。誰が描いたのかは絵を見れば一目瞭然。鹿江 風花だ。幼少の頃から、天才だの神童だの言われて、絵を描き続けてきた彼女は、高校生活においても、その才能を遺憾無く発揮し、コンテストに出せば優秀作品に選ばれるのは当たり前で、しばしば大賞作品に選ばれていた。
今、俺の目の前にある絵もその大賞に選ばれた絵の一つであった。キャンバスに所狭しと描かれた桜の木は今にも目の前に迫ってきそうなほどの迫力で、なおかつ力強かった。それにもかかわらず、桜独特の優美さを兼ね備えているのは、彼女ならではなのだろう。
さて、そんな大賞作品に感心とも嘆きとも言えないため息をついた後、横に目を向けると、佳作に選ばれた作品が並べられていた。その中の一つの絵の前に立つ。
こちらの絵についても誰が描いたかは良く分かっていた。というのもこの絵は、自分で描いた絵だ。忘れるわけもない。ちゃんと下のほうに、永倉 寿也という名前の書かれたプレートがぶら下がっている。
俺も昔は将来の天才画家などと呼ばれていたが、年を追うごとにその才能は常人のそれと区別が付かなくなっていき、気がつけば、ありふれた美術部員の一人になっていた。今回の絵は、これ以上ないほどに製作に打ち込んだ作品だったが、佳作に選ばれるのがやっとだった。それでも、佳作に選ばれるだけでも大層な事だし、凡人となった俺にとっては自慢できるような事ではあったが、心底喜ぶことが出来なかったのは、きっと鹿江の絵を見て″本物″というものを理解してしまったからだろう。
はぁ……と今度こそ本当の嘆きのため息をついた後、その場を離れようとすると、いつの間にか隣に人が来ていた事に気が付いた。
「鹿江……?」
そう、あの鹿江 風花が隣に立って俺の絵を見ていたのだ。
「これ、永倉君が描いた絵だったんですね」
「そうだよ。鹿江の目に止まるとは、俺の絵も偉くなったもんだな」
「いえ、ただ面白い絵だと思って見ていただけです。技術としては、まだまだ甘い所がいっぱいあります。一言で言うと未熟ですね」
鹿江は、ぐさぐさと言葉のナイフで俺の心を遠慮なく傷つけてくる。俺がどう思うとかは全く考えていないのだろう。
「悪かったな。鹿江と比べたら、そりゃあ未熟だよ」
「まぁ、私には関係ありませんので、どうでも良い事なのですが」
「じゃあ、どうでも良いじゃないか。俺はもう行くからな」
これ以上、この天才と話していたら鬱になってしまいそうだ。そう思って、鹿江に背を向ける。
「でも、面白いと思ったのは、本当ですよ」
後ろから聞こえるその言葉を聞いた瞬間、心の奥から喜怒哀楽のどれともつかない、よくわからない感情が湧き上がってきた。
「いつか……」
「はい?」
「いつか、お前に、俺の絵を心の底から認めさせてやる」
「……そんな日が来ると良いですね」
そう言って、鹿江は小さく笑った。
その日から、俺と鹿江の妙な関係が始まった
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