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2・描かれた絵
今日はいつにも増して駅前が騒がしい気がする。
何かあったのか? 少し見に行ってみるか。
折よく大型ビジョンに、原稿読みの女子アナが映し出された。
「今入って来たニュースです。指定暴力団鬼戎(きじゅう)会系二代目佐河原(さがわら)組の佐河原絹子(きぬこ)組長代行(45)が、先ほど事務所内にて襲撃されました。刃物による犯行で数十ヶ所刺されており、意識不明の重体。組員ふたりも心肺停止の状態で緊急搬送されました。犯人は現在逃走中。現場には激しく争った形跡と白い花が散乱しており、警視庁は強く恨みを持つ者の犯行として調査を続けています」
あの花……立葵じゃないか!? ということは、何日か前に来たアイツがやったのか……? あんな冴えない風体の奴がか?
「おお、異国の助言師さんのお出ましだ」
派手なスーツに、金髪のベリーショートの中性的な奴が、イスに腰かけて待っていた。ふたりのいかつい部下らしき組員が、油断なく鋭い眼光を飛ばしてくる。
「どちら様でしょうか?」
「なんだ、アンタ日本語話せんじゃん。前会ったときはひと言も話さなかったクセにさぁ」
こんなガラの悪い輩みたいな奴と会った憶えはない。
「憶えてねぇってツラしてやがんな。ほら、ばんそうこうと包帯に見覚えあんだろ?」
頬のばんそうこうに、左手中指の包帯――確かに、こんな部分的に怪我している人間は複数いるもんじゃない。
「抗争のときの怪我よ。ぶっちゃけ、ばんそうこうなんぞいらねぇんだけど、一応アタシも女だからさぁ」
「……役者ね」
見た目から振る舞いまで何から何まで180度違う。まるで別人のようだ。この女の底知れぬ力に、何歩か後ろに下がってしまった。
「いやあ、アンタのおかげでいい絵が描けたよ♡ 代行は頭の固い昔気質の姐(あね)さんでねぇ。このままだと組が干上がっちまうところだったんだわ」
それで誕生日の花言葉の意味を以って動いたというわけか。……自分はとんでもない人間に、助言をしてしまったみたいだ。
「大丈夫、アンタをサツに売ったりはしないからさ♡ 花言葉を教えてくれてありがとよ。現場に彩りができたわ。花のコトなんざ、わかりやしねーだろうし」
女がイスを蹴って立ち上がる。
「それじゃ、サヨナラ♡」
組員を従えて路地裏に入っていく。マンホールのフタが開いていて、そこから地下に逃れたようだ。フタが閉まると同時に、サイレンが一体に響き渡ったのだった。
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