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「ねえ、セルガって花好き?」
「好きではないな。花を愛でる習慣がない」
「そう」
「なんだ? 俺の誕生日に花畑にでも連れて行ってくれるのか? それよりだったら、ステーキ食べ放題に連れていってくれよ」
「違う。確かに誕生日のそれもあるけど……」
「気にするな。俺は誕生日なんてどうでもいいと思ってる。ところで、ストロベリーの苗はどうだ? 育っているか?」
「うん。そろそろ収穫できそうだよ」
俺たちはベランダで苺の苗を育てていた。その苗には既に緑色の実が付き、一部が赤く熟していた。この苗は俺が以前買ったものだ。
アヤカの退屈な部屋暮らしの息抜きになればと、花屋を見物していた時に、偶々日本産の高そうな苺の苗があったのでそれを買った。以来、アヤカは暇つぶし程度に苗の世話を続けていたのだが、その成果もようやく実りそうだ。
「そうか」
「あれ、もう寝るの? 早くない」
「ああ、明日は早出なんでな。そして、一週間くらい戻らないから、そのつもりでよろしく」
「そう。どこまで行くの?」
「カリフォルニアまで。本部の人間は俺のことが嫌いみたいでな。よっぽどシマナガシしたいらしい」
「島流しなんて難しい日本語よく知ってるね」
「同僚の日本人から教わっただけだ」
「そうなんだ。どう? 今夜?」
偶にアヤカは年齢にそぐわない誘いをしてくる。だが、俺は年下の女を抱く趣味はない。意外にも危険と隣り合わせなので、なるべく大切な人を作らないように心がけていた。仕事を優先するのなら、友人も同僚も家族も俺には必要ない。死んだ時に彼らに無駄な悲しみを増やすだけだと知っているから。
だから、俺はアヤカを引き取りたくなかった。成り行きとはいえ、危険を冒してまで助けなければよかった。だが、ボロボロで死にそうな小娘の手を取ったのは、俺は正義を振りかざさなければいけないからだ。自分の信念に従い、正義の味方にならなければいけないからだ。
「ばーか。まだ乳臭いガキを抱く趣味はねえよ。まだ、オムツは外れてないだろう」
「酷い。オムツは日本で外しました。ホント、またそうやって馬鹿にして」
「はいはい」
[……Good night]「おやすみ」
[Oh Good night]「ああ、おやすみ」
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