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言っちゃなんだが、オレはオンナを切らしたことがない。ま、ずっとモテてきたっていうか、ま、そういうことだ。バレンタイン?そんなのは、まわりのヤツらが束になったって負けることなかった。今は4~5人、付き合ってるって思わせてあるオンナをキープしてる。オレは全然、付き合ってると思っちゃないけど。
もっと増やそうと思えば増やすこともできるけど、それだけいれば食うのに困らない。だから、だいたいこのくらいの人数で回してる。
今日はユウミの連絡で起きた。
……ったく、もっと寝ていたかったのに。でも、こういうときにこそ、電話してやんのがオレの良いところ。
「ああ、オレだ。どうした?」
「あのね、今日お仕事終わりに会えないかな?」
「なに、なんかあった?」
「うん、とっても大事なお話があって」
「なによ、大事な話って?」
「えっと、会って話したい」
「しょうがねぇなぁ、じゃあ、いつものとこで」
「うん、無理言ってごめんね。じゃあ……」
オレは電話を切ると、また眠りについた。昨日盛り上がり過ぎたのだ。
夕方、約束の時間に起きた。けど焦らない。きっとユウミは待ってる。そういうオンナだ。なんちゅうか、待ってる自分が好きなタイプだ。
シャワーを浴び、髪をセットして、服は……、昨日のでいいか。
「さてと、出勤の時間っと」
待ち合わせの時間は1時間半ほど遅れてるが、まだ早いほう。
待ち合わせのコーヒーショップの扉をくぐる。
オレを待ってるオンナが笑顔で手をふってきた。
サービス、サービス。オレも手をあげて、ちょっとした変顔で応えてやる。そして、2歩3歩と店内に足を進めると、ふと気づいた。
今日、待ってるのは……、というより、この店を待ち合わせ場所としてるのはユウミ。でも、手をふってるのは半年くらい前に知り合ったマリ。
頭が混乱した。が、取り乱すのは違う。男が廃る。
動じてないフリをして、さらに近づいてくと、テーブルの向こう、つまり、マリの向かいにユウミが座っていた。
「遅かったわね」
ユウミの口調が違う。ほわっと系というか、のんびり系のはずなのに。
「ねぇ、座らないの……っていうか、どっちに座る?ってほうがい~~い?」
マリは笑顔でそう言った。こういう笑顔は非常にマズイ。
まさかバレるとは……。
ここは逃げ出すのが一番賢い。けれど、まわりには人がたくさん。逃げるのはカッコ悪いと思ってしまった。
とりあえず、となりのテーブルの椅子を取って、ふたりの真ん中、お誕生日席のように座った。
「どういうことか説明して」
「そう、わたしにも聞かせて」
「え、えっと……」
「らしくないわね」
「そうね、いつも自分が正しいって感じなのに」
「いや、その……」
どっちもの視線がオレを刺す。針のムシロ。
「じゃあ聞きかたを変えたげる。どっちが好き?」
「ふふふ、どっちどっち?」
「えっと……」
どちらのオンナも、1番,2番を争う太い金づるだ。どちらを失うのも痛い。簡単に答えを出すことができない。
「じゃあ、そちらの方とはどれくらいの付き合いなの?」
「わたしとは長いよね~~?」
「わたしも結構長いと思うんだけど?」
「あっれ~~、おっかしいねえ~~っ?」
オレの取り合い。取り合われるのは学生時代に慣れてるけど、みんながオープンだったからオレはながめてれば良かった。けど今回は金絡みだから秘密にしてた。だから、1日にオンナの掛け持ちはしないようにしてたんだ。
どこでバレたんだ。いや、今考えるべきはこのあとのこと。穏便にどちらもつなぎとめておく方法。
「わたしじゃ不満?」
「いや、そんなことは……」
「えっ、不満もないのにわたしに近づいたってことぉ?」
「あの、不満とかそんなんじゃ」
様々なキビシイ質問、答えようのない問いかけ、さらにオレが過去に話したことがらの矛盾点なんかを次々と口にするふたり。
汗が止まらない。
こんなときにだが、妙だなとふと思った。たったひとつの答えも出せないし確かめようもないけれど。それは、ふたりの息が合ってるというか、互いが互いのことを知っているんじゃないかと思えるのだった。それは、まるで姉妹のように。
「さあ、これからどうするつもり?」
「警察に突き出しちゃおっか?」
「わたしの仕事知ってるよね。弁護士の知り合いも多いんだけど」
「慰謝料にぃ、今までのお金ぇ、すぐに返せるぅ?」
「すいません。お金は……」
「ふん、あんた逃がさないよ」
「ま、わたしたちから逃げられると思うんだったら逃げても構わないけど」
「い、いや、そんなつもりは……、えっ?」
「うん、わたしたち付き合うことになったの」
「そうなの、あなたが来ないあいだに気が合っちゃった」
「あんたが全部悪いんだから」
「観念して。わたしたちをもう怒らせないでね」
「……はい」
オレは誓約書を書かされながら、たったひとこと、ほんの一撃だけでもくらわせてやれないかと考えた。
「ふん、女同士くせに……」
そうつぶやいた瞬間、即反撃をくらった。
「あんただって女じゃん」
身体はどうであれ、こころが男だってこと、そこだけでも分かってくれてると思っていたのに……。
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