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運命の輪
陽子はアンクのマスターの話に驚いて立ち上がった。
「そんな、急な話で…私一人では決められないし、みんなで話し合わないと…第一に本人がまだ知らないでしょう。」
「落ち着けよ。俺だって驚いているんだ。今朝、神社長から連絡もらってな。まあ、まだ詳細は分かっていないらしいから…」
「そう…ですか…」
重い空気が二人の間に漂う…
僕はコンクールに出せる料理を試行錯誤していた。
〝洋食のミヤサキ〟という看板を背負う以上、下手なものは出せない。シンプルだけど、ダイナミックな味、それでいて僕のオリジナル性が出せるものを考えないと…
僕はミヤサキに来た理由は親父さんの料理に感動したからだ。その料理を自分で作ってみたい。
でもそれでは僕の料理ではない。親父さんを超えないと…とてつもない目標だが、将来…僕が一人の料理人としてやって行くにはその覚悟が必要だという事だ。
親父さんが言った壁を越えないとと言ったのはこういうことなのか…僕の眼前にまるで巨大な岩山がそびえ立つくらいに大変な目標に僕は押し潰されそうになっていた。
雪は神社の石段の一番上でギターを弾く。
月に雲ががかる。まるで雪の心の悲しみを見ていられず、お月様が手で顔を覆っているようだった。
「母さん…」
雪の頬に涙がつたう。
いつからこんなに悲しい音になってしまったのだろう…楽しくないギターを弾く自分に雪の心はヒビが入ったガラスのように今にも壊れてしまいそうだった。
「アイツ、今また料理に夢中なのかな?」
以前、翔からもらった歌詞に曲をつけている
結真。翔の事を想いながら紡ぎ出される音は
雪のギターの音とは正反対の全く違うものだった…
海外のとあるオフィスでミュラー会長のイベントを配信した動画をずっと見つめる一人の女性がいた。
何度も結真のギターの音を繰り返し聴いている。
「…very good…!!」
みんなの運命の輪はゆっくりと回り始めようとしていた。
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