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その日、俺は会社で昇進を言い渡されて、いつになく浮かれていた。
我が事のように喜んでくれた同僚におだてられて、しこたま飲んで騒いでいた。
そんな帰り道で、すっかり遅くなってしまったために、近道をしようと公園へと入ろうとして、その前に一服しようと、近くにあった煙草の販売機の前で立ち止まる。
懐から財布を出して、浮かれた気分が収まらないまま小銭を入れようとすると、横から同時に伸ばされる手があった。
「……あ」
思わず呟いて横を見ると、そこにはニヒルな笑みを浮かべた、年齢不詳の男が立っていたのだ。
男の方も俺を見て、少し遠慮勝ちに会釈をする。
「どうも」
どこまでも続く闇に紛れるような、全身黒ずくめの格好で――。
しかし男は、声をかけた俺に遠慮するためなのか、首を横に振ると、譲る姿勢を見せる。
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