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「確かにそれは、飲みたくなる出来事だ」
身なりからして会社勤めでもなさそうだと思っていたのに、昇進する事の嬉しさを理解してもらえたらしく、益々調子に乗ってしまう。
「でしょう! 本当に僕も、嬉しかったですよ!」
満面の笑みで頷くと、俺も煙草を一本取り出して火を点ける。
自販機の明かりだけが頼りの、深夜に至る公園の入り口に、煙草の頼りない火が二つだけ灯る。
そこで初めて、不自然な事に気付いた。
いつもならば公園には、明るいくらいの街灯が点いているのに、今夜に限ってだけは、何故か全てが命を失ったように消えて、本当に自販機の灯りしかない状態なのだ。
そんな公園内から、夏の終わりを告げるような、妙に生温い風が吹き抜けていき、埃から庇うようにして目を瞑った。
そこで不意に、男が地の底から響くような、低い声を放つ。
「今夜みたいな日に、野暮な事はしないでおこう」
低い、が、良く通る声だった。
「……え?」
驚いて瞳をあけると、男は相変わらずニヒルに笑っていた。
俺を見詰めて肩をすくめると、少し困ったように続けるのだ。
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