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「本当は、こんな筈じゃあなかったんだが」
ならば一体、“どんな筈”であったというのか。
男の表情からは真意も読めず、だからといって、ここで怯んでしまってはいけないと、自分を奮い立たせる。
「……何の、お話ですか」
言葉の意味が理解らずに、思い切って首を傾げて問いかける。
――だが男は、笑みを見せるだけで再び肩をすくめると、煙草の紫煙を吐き出すばかりだ。
「さてね。……困ったな」
困っているのはこっちの方だ。
いきなり意味の分からない事を言われて、一人で困られても、俺の方が戸惑ってしまっている。
もうそれ以上は話をつなげなくて、無難な返しでお茶を濁そうと決める。
「そ、そう言えば貴方、お名前は」
ここにきて聞く事でもなかったのだが、下手な質問は身を滅ぼしそうで、且つ咄嗟に浮かんだのがこれだけという、情けない結果であった。
「さぁ、どうだったかな」
だが肝心な男は、俺の問いに軽くあしらう姿勢を見せると、吸っていた煙草を携帯灰皿へと押し付け、そのまま踵を返そうとする。
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