気弱な僕と成り上がりの話

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上に行くという事は誰かを押しのける事。 誰かを踏み台にするという事。 決して美しいものではない。 決して誇らしい事ではない。 決して褒められた事ではない。 事実、僕の同僚は後から入ってきた後輩の出世の踏み台にされ会社を去った。 僕は無性に悲しかった。 いい奴ではなかったけれども愛嬌はあった。 だからいい奴ではない所につけ込まれたのだ。彼は。 世に言うリーマンショックで会社の経営が傾いた時、後輩は同僚のだらしない点を吹聴して回り、新しく変わった上役におべっかを使い上手く立ち回った。 結果、後輩は短期間で異例の出世を果たし同僚は絶望し退職した。 僕ですら同僚の退職は納得できなかった。 しかし同僚が決めた事だし、社内の歪さを身をもって知らされた、いや人間の暗黒面を嫌と言うほど知る事になった彼の心中を察するのは僕では無理だと思う。 それに僕でさえ後輩に笑いかけられる事は不快極まりなかった。 「困った事があればいつでも相談に乗るよ」なんて声をかけられても、顔で笑っても、心は許さなかったし、どす黒い思いはゆっくりと僕の中に渦巻いていた。 だが彼の栄華は長く続かなかった。 同僚と僕の上司が白昼に後輩を罵倒した。 上司は事の成り行きを決して納得はしていなかったし、同僚にも「俺がいつか敵を取る!」と去り際に言い放った人である。 上司の罵倒の凄まじさに僕の黒いものはどこ行く風で、留まる事を知らない罵声に僕は上司の身を案じた。 でも結果は上司に軍配が上がる。 正直、罵倒ののち上役と会議室に後輩が消えた際には、上司に「あそこまで行って大丈夫ですか」と小声で話しかけた先輩に上司は。 「どうでもいいんじゃね?腹は決まってるし」 と上司は返答した後、言いたい事を全て言い切ったせいか引きずる事なくテキパキと仕事を再開した。 そして翌日の朝礼で後輩の退職が告げられる。 後で先輩から小耳挟んだが同僚も退職後に上層部に怪文書的な物を送り付けていたようで、色々と軋轢は生まれていたようだ。 僕は僕で黒いものがどこかに解けだしていく事に安堵した。 だが同時に考え込んでしまった。 成り上がり物とはどこにでもいる。 しかし、成り上がり没落する事なく生きていける人と何が違うのだろうと思ったから。 でも僕は考える事をすぐにやめた。 違いが分かった所で僕には余り関係は無いし、それに僕みたいな人間は地道にコツコツと積み上げていく事しかできないし、何より今は去った同僚の言葉。 「自分が誇るに足る仕事をし続ける限り、誰かは見てるもんさ」 この言葉すら満足に出来ない僕には過ぎた領分でしかない。 だから僕は努力し続ける。 いつか誇るに足る仕事ができるように。 そんな自分になれるように。 誰かを貶め、押しのける事より自分が確かなモノを築く事。 未だ誇るに足るものはないけれども、努力して得たものは僕に根付いている事は感じている。 少しづつ、少しづつ。 僕は僕らしく歩けばいい。
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