あふれる想いを花束にして

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高校二年生の杉本美咲(すぎもとみさき)は、クラスではあまり目立たない存在だ。成績は中の上だけれど、前にでるタイプではないし、近眼のため、茶色いフレームのメガネが手放せない。  そんな美咲には密かに憧れている相手がいた。バスケ部のエース、梶原悠人(かじはらゆうと)だ。二年のクラス替えで幸運にも同じクラスになった。美咲が悠人のことを知ったのは、1年前にさかのぼるーー  地元の中学校から私立の高校へ進学したばかりの美咲は、新しい環境で、上手くやっていけるのか不安だった。だが、幼なじみの佳奈(かな)と偶然にも同じクラスになり、いつも明るくて 社交的な佳奈のおかげで、高校生活も少しずつ慣れてきていた。    美咲の高校では、例年6月にクラス対抗の球技大会があり、生徒は何らかの球技に参加することになっていた。美咲も佳奈と一緒にバレーの試合に参加した。運動があまり得意ではなかった上に、クラスメイトに文化系が多かった美咲のチームは、あっさり初戦敗退した。 「私たちの出番なくなっちゃったから、他の試合でも見に行く?」  佳奈の誘いもあって、美咲は二人で試合会場を回ることにした。そんな中、ひときわ大きな歓声の上がるコートがある。女子の黄色い歓声だけでなく、男子からの熱い声援もある。 「どうしてここだけこんなに盛り上がってるの?」  怪訝な顔で美咲がつぶやくと、偶然横で応援していた他クラスの女の子が教えてくれる。「今、ちょうど3組と8組のバスケの決勝戦なの。3組が勝ちそうだったんだけど、8組が追い上げて逆転するかどうかの瀬戸際なんだ」 「あ、あの人、すごく上手いね」  佳奈の言葉に先程の女の子が答える。 「梶原君、私と同じクラスなんだけど、中学校の頃からバスケ部で有名だったの」  そんな二人のやりとりを横で聞きながら、点差もあと1点、残り時間もあとわずかになったとき、先程から話題になっている彼が数人のガードを華麗にかわしてシュートを決めた。その無駄のない動きは、バスケに詳しくない美咲でさえ、見惚れてしまうものだった。  ーーピーーッ  どよめく歓声、その瞬間、終了を知らせるホイッスルが鳴る。 「うわぁ、決まったー!!」  先程の女の子と佳奈はいつの間にか手に手をとって、はしゃいでいる。  180センチくらいある身長に、男らしい顔立ちのせいか、試合中の厳しい表情では少し強面にも見える梶原だが、シュートを決めた後、チームメイトとタッチする時に、はにかんだような笑顔になる。あまり異性に対して免疫のない美咲にとって、その笑顔は一瞬で恋に落ちるのに十分だった。 「どうしたの美咲?もしかして、梶原君にみとれちゃった?」 「そんなことないよ!もう佳奈ったら…」  照れ隠しのように慌てて否定する美咲に 「梶原君のプレーって、本当にカッコいいよね。でも、相手チームで最後までディフェンスしていた川崎くんの方がファンは多いかな。彼女いるみたいだから、みんな見て楽しんでるって感じなんだけど」  他愛もない会話を交わして、8組の彼女はクラスの勝利を祝う人群れの方に駆けていった。 「自分のクラスでもないのに、すっかり盛り上がっちゃったね」  歩きながら話す佳奈に、美咲がつぶやいた。「……バスケ部の試合って観ることができるのかな?」
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