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二十五日・昼
呆然としているうちにめまぐるしく季節は移り変わり、気がつけば東郷さんが亡くなった事故から一年が経っていた。
東郷さんのお墓の場所を教えてくれたのは中野さんだった。わざわざ店まで来て、わたしがいなかったから店長に伝言を残してくれたのだ。
わたしは東郷さんを助けることができなかった。雨が降るたびに、白い薔薇を見るたびに、あの日の後悔が押し寄せる。
だからせめてもの償いに、白い薔薇を十五本、東郷さんに捧げたい。東郷さんがそうしてきたように。
「ごめんなさい、東郷さん……」
閉ざした瞼の裏へ、風にそよぐ十五本分の白い花弁の残像が焼き付く。ぎらぎらと照りつける太陽で溶けてしまいそうだ。わたしにもいつか、罰が下るのだろうか。
「綾瀬さん」
そのとき、背後で誰かがわたしの名を呼んだ。
まさか、東郷さん?
はっと目を開けて振り返った先にいたのは、供花と水桶を持つ中野さんだった。
「あの……思い詰めないでくださいね。あの事故は誰のせいでもないんですから」
わたしがなにも言わずにいると、中野さんは焦ったように言い募った。
「そういや綾瀬さんって何時のシフトなんですか? あ、ていうかまだラトゥールで働いてますよね?」
わたしはかすかに頷きを返した。
「……遅番です。火曜と金曜以外は……います」
「じゃあ火金以外の夜に行けばいいんですね……あ、深い意味はないんですけど。ほら、東郷と冬木の墓に供える花、作ってもらいたいなーって」
大仰に身振りをするものだから、桶から水がこぼれて、中野さんの足を濡らした。冷たかったのか妙に甲高い悲鳴をあげる中野さんに、わたしはなんだかおかしくなって笑い声をあげてしまった。
それはごく小さなものだったけど、中野さんもほっとしたように笑みをこぼした。
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