二十五日・朝

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 東郷さんの肩越しに、わたしと同世代くらいの男性が現れた。黄色のシャツと青い傘のコントラストが鮮やかで、雨でぼんやり煙る視界を払うようだった。  この人は東郷さんの知り合いなのだろうかと考えていると、その人が、あ、と声をあげた。 「もしかして、綾瀬さん? 花屋の店員の」 「あ……はい」 「東郷から聞きましたよ。冬木の墓に供える花束をいつも作ってくれてるんですよね。つーか東郷、傘ないの? オレのに入れば」 「中野、僕はもう行く」 「え? ちょっと待てよ! せっかくだからどっかで話そうぜ」 「二人で話せばいい」  わたしたちを振り払うようにはっきり言い切り、東郷さんは足早に去って行った。水の跳ねる音が何度かして、すぐに聞こえなくなった。 「やっぱりまだ冬木のこと気にしてるんだな……」  なんのことだろうという疑問を差し挟む余地もなく、中野さんはわたしへ向き直って口を開いた。 「学生のとき、東郷と付き合っていた彼女……冬木っていうんですけど、そいつが急に失踪したんです。連絡も取れなくなって、東郷はかなり落ち込んでました」 「え……」 「数ヶ月後、東郷の前に現れた冬木は妊娠してて、責任を取るよう東郷に言ったらしいんです。でも東郷はそのとき、すでに別の女性と婚約していたんです。そう伝えたらすげえ錯乱したらしくて……次の日、警察から東郷に連絡がいったらしいです。冬木が自室で首を吊っている……って」
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