二十五日・朝

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 押し寄せる情報の濁流にわたしはよろめいた。 「ど、どうして……」  どうしてわたしはこんな話をされているのだろう。どうしてこの人はわたしにこんなことを言うのだろう。  そしてどうして、東郷さんにそんな不幸が訪れたのだろう。 「冬木の遺書に東郷の名前があったらしいです。いろいろあって東郷の婚約は解消になりました」 「そんな……だって」 「なにも言わずにいきなり消えた冬木が悪いって、オレはそう言ったんですけど……でも東郷は、いまだに自分を責め続けてる。きっと東郷は自分を許せないんだ」  中野さんの丸い瞳がわたしをまっすぐに見た。 「こんなこと、初対面の人に言うべきじゃないとは思ったし、言われたって困るだろうけど、でも綾瀬さんのことを話すときの東郷は、いつもより苦しくなさそうだった」  いたたまれなさに視線を動かすと、東郷さんの手向けた薔薇の花弁に黒い斑点を見つけた。  暑さと雨で枯れてしまったのだろうか、と思い、それが勘違いだとすぐに気がついた。  内側から外側へ、絵の具を垂らしたように黒色が浸食していくのを目の当たりにしたからだ。  十五本の薔薇が、血を吸ったような黒赤色に変色していく。  ひどく嫌な予感がして、わたしは傘を放り出して駆け出した。
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