私は病気じゃないのよ

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 深夜、もうすぐ日付が変わろうとしている時間、私は下着姿で姿見の鏡の前に立っている。部屋は明るく、カーテンは全開に開いている。鏡は窓の近くに置いてあるため、外からは丸見え。それもここはマンションの三階、外からは見ようと思えば見える。  二十四歳の女、私は自分の身体が一番愛らしいの。他人の身体が汚く見えるわけじゃないわ、そうじゃないけど、私の身体が一番可愛いの。 「赤は派手すぎたかしら」  お店で見た時はすごく素敵に見えた真っ赤な下着。いざ自宅の鏡の前で自分に晒すと羞恥心をくすぐられ、下着をつけているのにお胸やお股を手で覆った。次は身体を捻らせて、首筋、お背中、おヒップ、お脚を上から下へと満足のいくまで見る。 「セクシー、それでいてとても素敵よ」  まるで他人に話すような口調で私に言った。ショーツに施された、赤と白が混じり合った薔薇の刺繍がおヒップを彩っている。太ももの付け根からおヒップの頬を持ち上げ、ぷるんっと揺らしてみる。 「可愛らしい」  外の風が窓を揺らし、その音で我に返った。恥らしい表情になっている自分を見て、薔薇をそっと隠した。今日は風が邪魔をする。  冷えてしまった身体を暖めようとお風呂に入浴した。お風呂は私をすべて感じれる時間。火照ったお肌、伝う汗。あえて身体を洗わずに先に入浴するのがいいの。身体を洗う時は隅々まで優しく素手で、形を感じながらゆっくり撫でる。排泄の穴まで指で丁寧に可愛がってあげるのよ。だって汚い汚いって言われがちな穴なんて、自分で愛してあげないと可哀想じゃない。 「私は病気じゃない。狂ってもいないわ。排便穴だって立派な自分の身体じゃないの、誰かから見える場所のお肌だけ時間をかけてあげるなんて可哀想。私は隅々まで私が好きなの。私は病気じゃないの」  病気じゃない、そう言わないと醜いと見られてしまいそうなのが怖いなんて、ほんとは思いたくないと思いながら、排便穴をゆっくり指先で洗ってあげている。 「私は私の世界で、私らしく美しく生きれてるわね」  身体を拭き、ブラジャーはつけないでパジャマを着た。部屋の電気は消し、デスクに座りデスクライトだけをつけ、小説を開いた。  それはそれは夢物語。現実味なんてどこにもない綺麗な物語。お姫様や王子様が出てくる典型的な物語、私があまり好まないタイプのお話。でもこういったお話は最後で必ず気持ちよく終わってくれる。その後の物語は存在しないかのように。  読み進めて半分くらい読み終わった頃、何回目かのあくびをした。くしゃみも二回ほどした。おならもした。かゆくなった太ももを掻いたりもした。私だって人間だもの。夢物語の中のお姫様はおならもしないような完璧人間なのだろうが、私は人間らしく動く。心臓も動いている。腸も動いている。便意を感じて本を閉じた。 「あ、しおり挟むのを忘れたわ」  後悔に惜しまずお手洗いへ向かう。  下半身をあらわにし、便座に腰を下ろす。力み漏れる吐息が自分の耳に響き、排便穴を暖かい便が優しく撫でながら下に落ちていく。もう一度ゆっくり力み、まだ顔を出していない繋がった残りの便を捻り出す。ぽちゃ。音が静かな部屋に響き渡ると共に、止まっていた息を吐く。 「あらあら、さっき洗ってあげたばかりのにもう臭わせちゃって」  おヒップを撫でながら独り言をつぶやいた。トイレットペーパーを巻き取り、排便穴を紙越しに撫でる。  眠りに入り、夢の中へと覗き込む。夢の中で私は自宅のベランダに立っていた。視界の先はどこまでも真っ白く、白銀の世界と言われる真冬。素っ裸だった。裸足でベランダの雪を踏みつけている。遠くを見ても誰もいない、車一つ走っていない。きっとこの世界には私しかいないのだと悟った。そうわかった途端玄関の方へ駆け出し、何も身に纏わないまま外へ出た。 「静かね」  白く見える吐く息を目で追いながらつぶやいた。  今はとにかく歩いた。素っ裸の女性が街に独り。お胸とお股を両手で隠しながら、ひたすら歩いた。一歩踏むたびに、少し大きな私のおヒップは可憐に揺れた。揺れるたび、お股の奥が徐々に湿っていく。何処かには誰かいるんじゃないか、みんな家に引きこもっているだけ、きっとそうに違いない。私の愛おしい無防備なこの身体を誰かが見れば、美しいと見惚れるはず。 「愛液が溢れちゃう」  気づけば私のお股は愛らしい涙を流していた。  夢は覚め、カーテンの隙間から日の明かりが差していた。休日の今日は目覚まし時計ともおさらばの日。もちろん起きたのは昼過ぎ。身体を起こすと急に空腹感に襲われた。朝食を食べていないのだから胃は空っぽのはず。料理をする気力も起きなかった私は、買い溜めしておいたカップラーメンにお湯を注いだ。 「美味しい」  麺をすするお口は止まらなかった。空腹を満たそうと本能で一気に完食する。 「ご馳走さま」  テッシュで唇周りを拭き取り、空っぽになったカップラーメンをゴミ箱へ入れた。食事を終えると洗面所に行き歯を磨き、お顔を洗った。鏡の中の私と目が合い、おはようとにっこり笑った。 「おならが出ちゃいそうなの」 「いいわよ、恥ずかしい音も臭いもすべて愛してあげるわ」 「ありがとう、大好きよ」 「私もよ」  鏡に映る恥じらっている私の頬を撫でながら、瞳の奥を見つめている。涙はやっぱり優しかった、私の頬をゆっくり長く撫でながら顎へと伝った。恥ずかしい音とお鼻をつく香りが私を包み込んだ。
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