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さあ、ここまでくればもう予想がつくだろう……。
そう。その翌日も、そのさらに翌日も、さらにさらに翌日も、休むことなく花束は毎日届けられたのである。
次に届いたのは白いグラデーションのある紫の花弁で、オレンジ色の大きな雌しべのあるものだ。
「それはクロッカスね」
やはり同室のおばさんがそう教えてくれた。
そのまた翌日は白い小さな花の集合体で、アサガオのような葉っぱのものだ。
なんか、この感じ、見たことあるようなないような……道端とかにでもあったのだろうか……。
「そりゃあ、ガマズミだ。秋には赤い実つけるんだよ。小せえ頃によく食べたなあ。焼酎に浸けて果実酒にもするんだぜ」
それには私同様、花とは無縁のように思えた同室に入院するお爺さんが、どこか懐かしそうな眼差しで見つめながら説明をしてくれた。
「ああ、そうそう。わたしも学校の帰りとかに道草して食べたわ~」
すると、同室の叔母さんもそう言って、遠い日を思い出すかのようにガマズミの花へ視線を送る。
どうやらある世代より上の人達には、たいへん馴染みのある野の草花らしい……。
にしても、またなんともお見舞いの花にはあまりしないようなものを……ネタが尽きてきたのだろうか?
そして、花束のお見舞いが来だしてからこれで七日目となるが、その日のものは白い花びらの喉もとに赤紫の斑のある五弁の大輪で、真ん中の雄しべと雌しべが黄色いものだった。
「それはゴジアオイね。横文字だとキスツスとか言ったかしら……お昼頃に咲くからそんな名前らしいんだけど、どうしてお昼なのに五時なのかしらね?」
その花についても、名前だけは知っていたらしく、同室のおばさんが首を傾げながら教えてくれた。
「そりゃあ五時じゃなく午時だ午時。午時葵だ。十二支の午だよ。ほら、正午っていうだろ? 昔はお昼頃を午の時って言ったのさ」
すると、あの意外と博識なお爺さんがおばさんの疑問に答えてくれる。
なるほど。私もそんな歴史に明るくないのでおばさんと同様の勘違いをしていたが、名前の意味はそういうことか……。
そう言われてから見ると、なんだか花弁が時計の文字盤のようにも見えてくるのでおもしろい。
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