お見舞いの花

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 ま、ともかくも、今日もまたこれまでのものとは違った趣の花だった。  ガマズミのような少々ムリクリなものもあったが、ここまでよくぞ一度もかぶらすにきたものだ。これはやはり、会社のみんなが協力して贈ってくれているというよりは、個人々〃でしてくれているものなのだろうか?  見舞いは一切いらないと言っておいたけれど、それでもと最初の一人が花を贈ったのをみんなが知って、他の者も贈らなければならないという、ある種の強迫観念にかられてこの贈花ブームが到来したとか……右にならえを美徳とする、日本独自の社会性というやつだ。  しかし、それにしては毎日一束づつという統制のとれたところも少々疑問だし、ここまで毎日、花の種類が重ならないというのもなんとも妙だ。  いや、それ以前に花束を贈るにしても、こんな一種類づつではなく、何種類か混ぜて花束を作る方がメジャーな気もするが……。  よく考えると不可解なこともいろいろとあるのだが、そんな疑問を残しつつも日に日に増えてゆくそれぞれ趣きの異なる花達によって、窓辺の景色はいよいよ豪華絢爛なものとなっていった。 「とりあえず記念に撮っておくか……」  その生け花…というより、フリワーアレンジメントといった感じの豪勢な花瓶の花に、私はスマホを向けると一枚カメラに収めておく。  特に経験はないそうだが、看護婦さんもなかなかに生け花のセンスがある。  だが、もうこの花瓶に生けるのも限界だな……ま、最初にもらったスイセンはそろそろ替え時だろうし、これを抜けば少しはスペースも空きそうだが……。  ところが、そんな私の心配はまったくの杞憂に終わった……。  その日を境に、ぴったりと花束が届くことはなくなったのだ。  毎日続いていたことが急になくなると、なんだか淋しいような気もする。  まあ、ただ単に花を贈ろうと思っていた会社の同僚達が全員贈り終わっただけなのかもしれないし、もう二、三日もすれば私も退院になるだろう。ここまでくれば、最早、見舞いの花も無用だ。  内心、ちょっとつまらなさを密かに感じつつもすぐに三日が過ぎ、私はめでたく退院となった。 「この花は誰かほしい人で分けてください」 「まあ! いいんですか? ありがとうございます」  長くはもたないだろうが豪華絢爛になった花瓶の花は、これまでの感謝の思いも込めて看護婦さんに渡してきた。  私は一人暮らしだし、家に持って帰るよりは無駄にならなくていいだろう。  そして、胃の方も全快して、いよいよ会社へも復帰することとなったのであるが……。
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