お見舞いの花

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「それで、残りの二つなんですが……ガマズミはその……〝無視したら私死にます〟、ゴジアオイは〝私は明日死ぬだろう〟……だそうです」  私は、絶句した。  なんだか、その言葉に込められた呪いの力に全身を縛りあげられてしまったかのように、声を発することも、いや瞬き一つすることもできない。 「あ、あの……お伝えするべきかどうか迷ったんですが……どうにもその……花言葉にストーリー性があるっていうか、意味ありげに揃ってるように思えてしまったもので……」  取り繕う看護婦さんの様子を見るに、きっと私はかなり恐ろしい形相をしていたのだろう。  私がこれほどの衝撃を受けたのは、なにもこの不穏な花言葉自体のせいばかりではない。  それよりも、その花言葉から思い至る贈り主が、ある一人の人物しか考えられなかったからだ。  じつをいうと、私はつい先頃までストーカー被害を受けていた。  相手は須藤華という、合コンで知り合った後に一度だけデートをした相手だ。  そのデートで性格が合いそうにないと感じたので私的には付き合うのをやめにしたのであるが、彼女の方はもうとっくに付き合っているものと思い込み、異様なほどにしつこくつきまとうようになった。  真夜中でもかまわず電話をかけてくるし、一日中、5分置きくらいにSNSでDMを送りつけてくるし、仕事を終えて家に帰れば、玄関先で待っているなんてこともザラにあった。  ずっとどこかで監視でもしているのか? また別の合コンで知り合った女の子と二人で食事に行ったら、そこをいつの間にか隠し撮りして送りつけてくると、恋人でもないのに浮気だと騒ぎ立てたこともある。  いや、もちろん彼女が勘違いをしていることは、はっきりとした言葉で伝えた。  だが、自分に都合の悪い話はまるで聞こえていないかのように彼女は無視をし続け、それどころか挙句の果てには結婚話を持ち出してきて、勝手に式場や教会まで決め出したのだ。  こうなるとさすがにもう放ってはおけず、私は警察にストーカー被害の届けを出すと、裁判で彼女には私への接近禁止命令などが出された。  だが、それでも彼女は性懲りもなく私の前に現れると、そもそもそんなもの初めから存在すらしない関係改善を求め、幾度か警察を呼ぶ騒ぎにもなった。  私の胃に穴が開いたのも、そんな彼女へのストレスが原因だ。
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