3人が本棚に入れています
本棚に追加
1、ボクがボクである理由・前編
ボクは、自分のことを『ボク』と呼ぶ。
何故なのか、よく聞かれる。
ボクの家族には、父さんがいないからだ。
ボクは、父さんの分まで強くなりたかったんだ。大切な人を守れるような強さが欲しかったんだ。
弟もボクも、父さんの顔を知らない。母さんも、父さんのことを話そうとはしない。
……1度、聞いてみたことがある。
あれは5歳の頃だったろうか。
ボクの家は、こじんまりとした一軒家だ。ドアから入ってすぐ右にあるリビングで、母さんに尋ねた。
「どうしてみんなにはお父さんがいて、私たちにはいないの?どこに行ってしまったの?」
そう聞くと、母さんの表情が曇る。
今考えると、触れてはいけない話題だったのだろう。そんな事も分からなかった当時のボク。しばらくしつこく聞き続けたのだ。すると、遂に母さんは泣き出してしまった。
流石のボクもはっとして、それ以来聞くことはなくなった。
聞かなかったとて、興味がない訳ではない。
あの日焼け落ちた家の残骸の中に、ボクは1冊の日記を見つけた。
最初のコメントを投稿しよう!