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第十話 意識高い系
翌日、瑞穂の提案により部室のテレビに東雲のバッティング映像を映し出した。
今日も練習に来ていないヲタコンビ以外は全員、映像を真剣な表情で見つめている。
「この人が皇帝の一年生、東雲君です」
瑞穂は戸惑っている。この映像は見せない方が良かったかもしれないと。現に今、メンバーは険しい顔をしている。
「インローの難しいボールを、よく左中間に運んだな」
兵藤だった。他のメンバーも同意と言わんばかりに頷いている。
「左中間のバッティングも凄いが、俺は一打席目の対応力に驚いている」
不破が黒縁メガネをクイッと上げながら、続けて口を開いた。
「明らかに反応は遅れていた。おそらく千河のスライダーが予想よりキレていたのだろう。それでも腕や身体を上手く使って対応してきた」
キャッチャーの不破としては、こうした裏をかけないタイプのバッターは、対応に困るのだろう。眉間にシワを寄せながら映像を見続けている。
「僕、走ってくるね」
守は部室からサッと姿を消した。こうも完璧に打たれた映像を見られ続けるのに、守は我慢の限界だったのかもしれない。
「東雲君は確かに素晴らしい選手ですが、彼にも欠点があります」
上杉監督だった。皆が上杉に視線を移した。
「彼はシニア時代、その能力の高さ故に個人プレーに走っていました。彼は確かピッチャーです。こちらがチームプレーで揺さぶっていけば勝機はありますよ」
監督はどこからそんな情報を仕入れてくるのだろう、瑞穂は感心していた。
「間違いなく、我々は舐められています。大方、この試合は一年生の力試しと思われているでしょう。まあ、これは練習試合です。負けても勉強になればいいじゃないですか」
上杉は笑いながら全員を煽り、部室を後にした。
「皆、悔しくないか?同じ一年生、俺は絶対に勝ちたい」
氷室は立ち上がり、鼓舞した。
「ああ、ギャンブルでも部分的に負けるのはいいが、一日トータルで負けるのは絶対に許されねぇ」
兵藤も立ち上がった。瑞穂にはなぜかれがギャンブルの例えを出したのか、理解できなかった。
他の皆も立ち上がって、ゾロゾロと練習に向かった。すごい、監督の煽り一つでメンバーの戦う気持ちに火をつけていた。瑞穂も急いでサポートの準備に取り掛かった。
その日の練習は、皆遅くまで残ったのだった。
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