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第二話 野球部に入部したのだが、早速人数が足りない件
春が来た。心地よい風が吹き、通学路は桜吹雪が舞っている。
まるで、これからの明るい未来を示しているようだ……と、似合わない乙女チックな想いを巡らせながら守は歩いていた。ただ、まだ首が露出するくらいの髪の長さに慣れてないのか、頻繁に首元を触っていた。
「まーもーるー!」
後ろから大きな声が聞こえた。振り向くと白川瑞穂がふわふわと長い髪を揺らし、こちらに走ってきた。
相変わらず男子達からの熱い視線を集めているが、彼女は全く気が付いていないようだ。
「はぁっはぁっ……おはよう守」
息を切らしながら瑞穂が挨拶をした。男子がときめくのもわかる気がした。
「おはよう瑞穂、私は学校だと『ヒカル』って名前なんだから、大声で本名言われると困るよ」
「ごめんね。でも嬉しいなぁ、守の正体知ってるのが監督さんと私だけなんて、ロマンチック」
瑞穂は両手を頬に当て、ニコニコと笑っていた。
「守、髪の毛短くしてさらにカッコよくなったよね! ますます好きになっちゃう」
今度は抱きついてきた。男子達の視線が痛い。
守としては自分は女で、そういう趣味はないと言いたいところだった。
「ちょっ、他の人も見てるから離れてよ」
「照れてるの? 私、また守の野球してる姿を見れるなんて幸せで……またサポートするから三年間宜しくね」
そう言って瑞穂はウインクをして見せた。
瑞穂と守は小学校から親友だ。瑞穂はチームでは控え選手だったが、分析やサポート業に優れている。
明来には守を追いかけ、マネージャーをする為に入学した。聞くと進学校の推薦を蹴ったそうだ。守としても非常に心強い存在である。
「私のために、ありがとうね。一緒に頑張ろ!」
「うん、守……ヒカル!」
……長い長い入学式が終わり、部活動説明会の時間となった。体育館内に各部活のブースが設置されている。
守と瑞穂は野球部のブースを見つけた。そこにはやはり赤いアロハシャツを着た上杉監督がいた。
「おはようございます、監督」
守は上杉に向かって会釈しした。
「おはよう千河君! ……と、一緒にいる美少女ちゃんは誰かな?」
「はじめまして、監督さん。ヒカルの大切な人、白川瑞穂と申します」
瑞穂はペコリと頭を下げた。
「誤解される言い方すな! ……あれ? 入部希望者はこれで全員ですか?」
守はキョロキョロと辺りを見回す。
確認するのも無理はない。と言うのも彼女達二人を入れて、ブースには六人しか集まっていない。
「はい。ちなみにここに居る生徒は白川さん以外部活推薦なので、一般希望者はゼロです。やはり野球人口は減ってますね」
上杉は笑いながら答えた。
笑ってる場合じゃねーだろボケアロハと内心思いながら、守は口を開いた。
「でもこの人数だと試合ができませんよ」
「ええ、この人数だとバスケしかできませんね。実績のない新設校なので、九人も推薦取る予算はもらえませんでした」
上杉はまた、ニヤニヤしながら話していた。
「ですので、あなた方には最初の活動として、試合に出てくれる人をあと四人見つけてください」
上杉は四本指を立て、部員全員に示した。
マジか……! 他の野球部員も全員困惑している様だ。誰しも普通に野球が出来るものだと思い込んでいたのだろう。
「ちなみに、十日後の土曜日に練習試合を組んでいます。今後の活動にも関わりますので人数不足は絶対に避けて下さいね」
とことん無茶振りをする監督だ。しかし試合がすぐ出来るのはありがたい。絶対に九人集める、守のやる気スイッチはカチッと押されていた。
こうして守たちの部活初日が始まったのだった。
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