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「水脈。大丈夫?」
自分の心臓がドクリと跳ねる音を聞きながらゆっくりと振り返ると、黒無地のワンピースにボレロを羽織った母が後ろで悲しそうに微笑んでいた。
__漂う線香の臭い。
__啜り泣くおばさんの声。
思考が、一瞬にして現実へと引き戻される。
「……ちょっと、昔のことを思い出してて」
込み上げてくる想いを抑えるように、制服のスカートの裾を握ると母がそっと私を抱き締めてくれる。
「……ちゃんと、お別れしないとね」
「……うん」
もやもやとした想いは、涙に変わることもなくこの胸に燻り続けている。
大好きで大好きで堪らなかったあの人は、もうどこにもいない。
__幼馴染みの太陽は死んでしまったのだ。
これからもずっと一緒だと思っていたあの頃の私は、まさかこんなことになるなんて想像もしていなかった。
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