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せっかく入った学校もつまらないものだった。話が合うやつはいないし、くだらないゲームや、テレビ番組の話が飛び交うだけ。トップ高といえどその程度かと正直思った。実際は深く関わっていないから、よく知らないだけかもしれないが、内心他のやつを馬鹿にしていた。
図書館が広いのと、庭園のある風景だけは気に入っていた。放課後誰もいない庭園の前でのんびり過ごすのが日課になっていた。その時だけは母から解放された気分になる。あまり遅くなるとまた母が癇癪を起こすので、長居はできなかったけれど。
その日もいつもと同じように庭園で図書館から借りた本を読んでいた。
「こんなところで読書か? さすが主席合格者は違うんだな」
「は?」
急に後ろから話しかけられ、振り向いたら、やばい格好のやつだった。うちの制服じゃない。
茶髪でロン毛だわ、耳に3つもピアスを開けているわ、なんだこいつと正直思った。
だが、それよりもそいつの言ったことが理解不能だった。
「主席は別のやつだろ。何言ってんだ?」
入学式で、冴えない眼鏡の男が壇上に上がって挨拶を読み上げていた。あれが主席のやつだとみんな言っていた。
「知らないんだ。あの馬鹿は、あんたに敵わなかったからってPTA会長である親の権限使って無理やり主席を取ったって話」
「はあ?」
俺はもう一度聞き返す。そんな話知らない。どうして目の前の奴が知っているのか、わけがわからない。
「もしそうだったとしても、なんでお前が知っているんだ?」
「さあ。なんでだろうな」
埒が明かないと思って、俺は会話をやめ、本をたたんでカバンにしまう。
「まあそういきり立つなよ。あんた幾原良和だろ?」
主席のことを知っているのだから俺の名前を知っていてもおかしくはない。が、こいつの何かが気に入らなかった。お前は誰だと聞く前に、目の前の男は自ら名乗った。
「俺は笹本静一。白高の1年」
白高とは、県内でも最下位を争う高校だ。なんでそいつが県内トップの少積高校にいるのかと思う。
「もしかして、ゴミ高校だから馬鹿にしてる?」
別にそんなことは思っていなかったのだが、そいつはにやにやと笑って言った。確かに見た目はチャラチャラしていて一見すると馬鹿っぽく見える。だけど、そいつの口元は笑っていても、目は笑っていないことに気付いた。
「いや、ただ何で別の学校のやつが主席のことなんか知っているのかと思ってな」
俺はとりあえず笹本の話に付き合うことにした。
笹本は人を捜していたという。誰を捜してたのかと思ったら、主席、つまり俺のことのようだ。その過程で不正のことを知ったらしい。
俺を捜していた理由は教えてくれなかった。代わりに期待できると言われたが、何のことだかわからない。
聞き返しても説明をする気はないらしい。一体何がしたいのかまったくわからない。目の前の男はひょうひょうとしていてつかみどころがない。そんな風に思った。
「それがガセか本当かぐらいわかるだろ。自分で調べろ」
「ちょ」
そいつはそれだけ言って去っていった。
一体何だったのか。
その笹本という男とはまた会うことになる。
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